新規事業を立ち上げる際に、外部から融資を受ける必要に迫られる場合があります。銀行による融資は審査が厳しいため、好条件での融資を望むならば、審査のポイントを把握することが大切です。法人が銀行から融資を受ける方法や流れ、必要書類、アピールするコツなどを解説します。
法人が銀行から融資を受ける方法は、金融商品や担保の種類に応じて主に6つに分かれます。それぞれの特徴やメリット、デメリットを紹介します。
▼より詳しく知りたい方は、以下の記事もご参考ください。
「銀行融資とは?メリット・デメリットや他の資金調達方法を解説」
ビジネスローンは事業資金の調達に使える金融商品で、保証人や担保は不要です。利用できるのは法人の経営者や個人事業主であり、事業を営んでいない個人は使えません。ビジネスローンは最短で即日の借り入れも可能な場合があります。融資の種類によっては2週間~1ヵ月程度かかるものもあるため、比較的早く資金を確保できる方法でしょう。
一方で銀行のプロパー融資などと比べて金利が高い傾向があり、商品ごとの金利が10%を超えることがあります。また、ビジネスローンは銀行融資と比べて借り入れ可能限度額は低い傾向があるため、少額の資金を迅速に調達したい方に適した方法です。
ビジネスローンとファクタリングの違いについては、下記記事で詳しく解説していますので、ご参考ください。
カードローンはATMから無担保・無保証で借り入れられる個人向け融資です。キャッシュカードやローン専用のカードを使い、契約時に設定した限度額の範囲内で利用できます。
カードローンは場所や時間に縛られず、必要が生じたタイミングですぐに資金調達できる方法です。契約した銀行のATM以外にも他行のATMにも対応しており、コンビニと提携していればコンビニの店舗内の端末からも利用できます。
カードローンは使途が自由なため、生活費やショッピングなどの不足額に捻出しても問題ありません。金利は高い傾向がありますが、利息制限法によって上限は20%となっています。
不動産担保ローンは土地や建物を担保に入れ、銀行から資金を調達する方法です。不動産の評価額しだいでは1億円を超える大規模な融資を受けることも可能です。
不動産担保ローンのメリットは金利の低さであり、担保がある分、無担保のビジネスローンやカードローンと比べて低金利で借り入れできます。ローンの返済期間が長期に及ぶのも利点で、商品次第では35年に設定可能です。
審査では信用情報のほか不動産の査定が必要となるため、融資までの時間が長期化します。また銀行に担保を差し出すにあたり、登記費用や印紙代、事務手数料などが伴うのも特徴です。金利は低いとはいえ各種手数料も考慮すると、返済時の支払総額は想定より大きくなる可能性があるため注意が必要です。
信用保証協会付融資は銀行から融資を受ける際、返済不能に陥ったときに備え、保証協会の保証を付ける方法です。銀行にとっては、万一の場合が生じても負担を負わずに済むのが利点です。利用には信用保証協会の基準を満たす必要があるほか、協会に対して保証料の支払いが伴います。
信用保証協会付融資は中小企業や小規模事業者への支援を目的とし、審査を通過するには「企業規模」「業種」「区域・業歴」の基準を満たす必要があります。たとえば情報処理サービス業の場合、資本金3億円以下、従業員300人以下が条件です。
大半の業種が保証の対象となるものの、農林漁業や金融など一部の業種は利用できません。区域・業績では、申込先の信用保証協会が管轄する地域で事業実態があることが条件です。
売掛金債権担保融資(ABL)は、企業が保有する売掛金などを担保に融資を受ける方法です。不動産の差し入れや保証人の必要がなく、利益が出ている企業であればその一部を担保に借り入れできます。
売掛金債権担保融資では、原則売掛先への通知と承認が必要です。そのため取引先が売掛金を担保とする行為を禁止している場合は利用できないことがあります。売掛金債権のほかにも、機械設備や在庫などの動産も担保に設定できます。
譲渡担保の形式が一般的なため、担保設定後にも設備を利用し続けられるのが特徴です。返済が滞ると事業に不可欠な生産設備を手放すことになり、経営状態が一気に悪化する懸念があります。
プロパー融資は銀行から直接企業に融資する方法です。信用保証協会による保証がないため、返済が滞ったときは金融機関が責任を負います。金融機関は、企業の返済不能を避ける必要があるため、厳しい審査を実施し資金を援助して問題ない企業か厳正にチェックします。審査では経営状況や過去の借り入れ、希望額をはじめ、幅広い視点から精査されるでしょう。
プロパー融資は限度額がないため、金融機関から信頼が厚い企業は、大規模な資金調達を低リスクで行える方法です。ただし信用保証協会付融資と比べて返済期間が短い傾向にあります。言い方を変えれば一度の返済が高額になるため、資金繰りの悪化を招く危険も伴う方法です。
銀行融資の形態は手形貸付・当座貸越・証書貸付の3つです。各手法の特徴を把握して、自社に適した方法を判断しましょう。
手形貸付は借入側が銀行に対して約束手形を振り出し、その金額の融資を受ける方法です。約束手形は期日までに所定の額を支払うことを示した有価証券の一種で、売買の決算手段にも使われます。
手形貸付の特徴は1年以内の短期貸付になることです。売掛金の入金までの弁済に充てるつなぎ資金や季節資金の確保に適しています。審査が早く、資金繰りの悪化を即座に解消しやすい方法です。一方で長期の融資や大規模な設備投資には不向きなため、時と場合を選ぶ手法だといえます。
当座貸越は金融機関と借入側で当座貸越契約を結び、限度額の範囲内で融資を受けられる方法です。上限を超えなければ、何度でも借り入れられます。利用者は不足額に応じた分の利息を負担すれば良いため、便利でハードルが低い方法です。
一方で銀行の視点に立つと、融資のタイミングや実際の利用状況が見えづらい面もあります。そのため審査を厳しくすることで、返済できる可能性が高い優良企業のみに限定し、貸し倒れの危険を防ぎます。
証書貸付は借入ごとに金銭消費貸借契約を取り交わし、都度、融資額や返済期間、利率を決める方法です。一般的には、貸付期間が1年を超える長期融資の際に用いられます。
証書貸付のデメリットは融資までのスピードが遅い傾向があることです。書類の記入や保証人、保有資産の確認などに時間がかかります。また、再度融資を申し入れる際は再び金銭消費賃貸契約証書が必要です。
法人が銀行から融資を受ける一般的な流れは次の通りです。
それぞれ借入側が何をすべきかみてみましょう。
はじめに銀行の窓口に出向き、事前相談を行う必要があります。事業内容やなぜ融資が必要かなど強い説得力が求められます。会社案内や事業計画書、決算書を持参するとより明確な説明がしやすいでしょう。事前相談では受け身にならず、質問を投げかけ、銀行側が融資を決める際に何を重視するか知る必要があります。
銀行側は融資額が回収できずに終わる貸し倒れを防ぎたいと考えています。現状では利益が出ていなくても、将来性や熱意を伝えて信頼を勝ち取りましょう。
事前相談で聞き取った情報をもとに必要書類を準備します。銀行は提出された書類をベースに、融資の可否や条件(格付けや限度額、金利など)を判断します。有利な条件を得るためにも事前相談時に担当者と十分なコミュニケーションを図り、事業の正確な状態を伝えましょう。
必要書類を揃え融資申込書とともに銀行の窓口へ提出します。審査は主に資料ベースの定量評価および、経営者の人柄や事業の将来性などを見る定性評価によって行われます。
銀行は定量評価と定性評価をもとに、融資を申し入れた企業を「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の5つの債務者区分に振り分けます。好条件で融資を受けるには一番上の正常先の評価を受けなくてはいけません。
定量評価は客観的な基準が存在しますが、数字で判断できない定性評価には融資担当者の主観が入り込む余地があります。求める条件で融資を受けるには、書類をベースに事業の安定性や将来性を示すことが重要です。
銀行から融資の承認が下りたら、契約書を取り交わします。銀行から初めて融資を受ける際には、銀行取引約定書の締結が必要です。
万一返済が滞った場合、銀行は銀行取引約定書の内容に基づいて、取り立てや差し押さえなどを行います。借入側は約定書の条項を十分に理解できていないと、突然不利な立場に置かれる危険もあるため、署名・押印をする前に、内容を頭に入れましょう。
法人が銀行から融資を受ける際に必要となる書類の例は次の通りです。
すぐに用意できない書類もあるため、銀行融資を検討する段階で早めに取り寄せましょう。決算書や試算表などは、銀行側が経営状態を正確に把握するための重要な書類です。
決算書には貸借対照表や損益計算書、キャッシュ・フロー計算書、株主資本等変動計算書などが含まれます。
試算表は決算書を作成する際の準備書類です。創業1年目の会社で決算書類を出せない場合、融資担当者は試算表を通じて現状を確認します。
銀行が融資を認める法人とは、継続して利益を上げている安定した企業です。審査を受ける際は、返済不能を起こす危険がないと積極的にアピールして、財務状況の健全性を伝える必要があります。信頼に値する企業だと示すためには、税理士に依頼した決算書の提出が効果的です。
また事業計画書も将来性の判断において重要な書類です。ここでは、法人が銀行融資を受ける確率を高めるためのコツを紹介します。
貸し倒れを起こさない会社だと示すために、財務状態の健全性をアピールする必要があります。健全性とは、資本の調達と運用の財務バランスが取れていることです。
それを分析する方法として、自己資本と他人資本の比率をチェックする資本構造分析や、固定資産と長期的な資本のバランスをみる投資構造分析があります。さらに利益の分配いかんで健全性を表す利益分配性向分析も存在します。
金融機関に提出する決算書は税務署への申告時に作成した書類を使いましょう。税理士の署名押印欄に顧問税理士などの名前があると、信頼性が高まるからです。専門家の証明付きの決算書であれば、粉飾決算の可能性は低いという安心感を与えられます。
融資の承認を得るうえで重要なのは信用力です。銀行融資で顧問税理士の存在は必須ではありませんが、トラブルを未然に防ぐための頼れる存在だといえるでしょう。
事業計画書は融資を受ける際の必須書類です。資金繰り表と合わせて実現の可能性が高い返済計画があれば、銀行は安心して資金援助できます。
金融機関の役割は、財務データや担保・保証に依存することなく、借り手側の事業や成長可能性を適切に評価し、融資や助言を行うことです。事業計画書は融資先が今後どのように成長するかを予測する書類であるため、より入念に準備する必要があるでしょう。
金融機関からの融資はポピュラーな方法ですが、創業間もない企業や信用力に乏しい会社は利用できない場合があります。銀行や信用金庫から援助を断られたときに使える資金調達の方法を紹介します。
政府が管轄する日本政策金融金庫では、銀行からの融資が難しい中小企業を支援する各種制度が存在します。融資制度はさまざまですが、新規事業などで事業が安定していない起業家が使いやすいのは、新創業融資制度や新規開業資金です。
新創業融資制度は無担保・無保証で、3,000万円を上限に融資を受けられます。一方で税務申告の回数や自己資本に上限があるため注意が必要です。
参考:日本政策金融公庫「新創業融資制度」
また、新規開業資金は場合によっては担保・保証人が必要ですが、最大で7,200万円までの大規模な援助の対象です。
参考:日本政策金融公庫「新規開業資金」
日本政策金融公庫で融資を受ける流れについては、下記記事で詳しく解説しておりますので、ご参考ください。
日本政策金融公庫で融資を受ける流れを解説!注意点や審査のコツも紹介
都道府県や市区町村の制度融資は、金融機関と比べて低金利で融資を受けられるのが特徴です。制度融資は地方自治体との二者間でのやり取りではなく、自治体と金融機関、信用保証協会が一体となって実施します。借入側は制度に関わる都道府県や市区町村から、保証協会に支払う保証料や利子の一部の補助を受けることが可能です。
自治体ごとに固有の制度があり、たとえば東京都では創業したての起業を支援する「中小企業制度融資『創業』」が存在します。制度融資は資金調達のハードルが低い方法である反面、複数の機関が審査に関わるため、承認まで時間がかかる傾向が見受けられます。
クレジットカード会社や消費者金融、信販会社などが主体となったノンバンクのビジネスローンを使う道もあります。銀行以外のビジネスローンは提出書類が比較的少なく、銀行や信用金庫と比べて融資までの時間が短いのが特徴です。
ただし金利は高い傾向があり、金融機関より借入限度額は低くなります。資金繰りが悪化して今すぐ資金調達を望む中小企業などに適した方法です。
ファクタリングは企業が保有する売掛債権を、期日の到来前に現金に変える資金調達の方法です。ファクタリング会社に売掛債権を譲渡することで、利用者は早期にキャッシュを確保できます。
売掛金債権担保融資と仕組みは似ていますが、ファクタリングは融資とは異なり、返済義務は発生しません。企業とファクタリング会社で契約を交わす二者間ファクタリングと、売掛先も関与する三者間ファクタリングの2種類があります。契約形態によって、手数料の水準や売掛金の返済義務がある企業への通知の有無などが異なります。
ファクタリングについては、下記記事で詳しく解説しておりますので、ご参考ください。
事業が成長するための資金調達手段として、時には外部からの融資が必要ですが、銀行や信用金庫から援助を受けるのは簡単ではありません。
また、貸し倒れのリスクが低い信用に値する企業と印象付けるには、金融機関とのコミュニケーションや必要書類の書き方に注意が必要です。融資では財務状態の健全性や将来性の高さが重要視されます。資金の援助先は金融機関に限らないため、他の手法も視野に入れつつ幅広い観点で適切な方法を見極めましょう。
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