スタートアップにとって、IPOはゴールの一つであり、上場企業としてのスタート地点でもあります。しかし、IPOの達成には社内の体制構築・強化や長期視点でのスケジュール策定などを行う必要があります。そのため、IPOを検討する際にはメリットとデメリットを把握し、自社にとってIPOが最適なイグジットであるかどうかも併せて検討しておくことが重要です。
本記事では、スタートアップがIPOするメリット・デメリットを紹介し、成功させるためのポイントや具体的なスケジュールを解説します。IPOを検討しているスタートアップの方は、ぜひ参考にしてください。
IPOはInitial Public Offeringの略で、日本語では「新規公開株」や「新規上場株式」と呼びます。簡単に言うと、まだ株式市場で取引されていない会社の株を証券取引所に上場し、誰でも自由に売買できるようにすることです。
詳しくは次の記事を参考にしてください。
スタートアップにとって、IPOはゴールの一つです。ただし、IPOにはメリットとデメリットがあります。自社にとって最適な選択肢を取るためには、メリットとデメリットを把握しておくことが大切です。
ここではまず、スタートアップがIPOを目指すメリットを紹介します。
上場すると社会的な認知度とともに、企業の知名度が上がります。経済ニュースや新聞、Webメディアなどで大きく取り上げられるため、これまで企業やサービスを知らなかった人々にも広く認知される絶好の機会となるでしょう。
新しいビジネスモデルを展開するスタートアップにとって、さまざまな形で注目されることはビジネスチャンスの拡大にもつながります。
上場すると一般の投資家に株式を購入してもらえるようになるため、資金調達力の向上につながります。社会的な信用力も増すため、金融機関から融資を受けやすくなるでしょう。
より多くの資金調達が可能となることは、新規事業や研究開発、人材採用、設備投資など、スタートアップにおいて重要な企業の成長を後押しします。
上場するためには、証券取引所の審査基準をクリアしなければなりません。審査基準のクリアには正確な会計や内部監査の実施、情報管理の徹底、リスク管理体制の構築など、内部管理体制の強化が重要です。
内部管理体制が強化されると、会社全体のコンプライアンス意識が向上し、不正や不祥事の予防に役立ちます。経営体制が健全になるとステークホルダーからの信頼向上にもつながり、企業価値が高まる可能性もあるでしょう。
上場企業になると、優秀な人材を獲得しやすくなります。上場企業は社会的な認知度や信用度が高いことで、求職者に「安定している」というイメージを持ってもらえるためです。また、株式公開によって得た資金を活用して待遇面を充実させることで、より優秀な人材を獲得できる可能性が高まるでしょう。
さらに、人材の定着率が向上する可能性もあります。内部管理体制が整備され、コンプライアンスが重視されるため、従業員は安心して働き続けることができるでしょう。
上場企業になると、「上場企業」というステータスが従業員のモチベーション向上につながる場合もあります。対外的な評価だけでなく、従業員自身の自己肯定感や自信にも現れるでしょう。また、会社への愛着や仕事への取り組みが強まり、より積極的な姿勢で働くことも期待できます。
IPOを目指す場合、従業員持株会制度やストックオプション制度の導入もおすすめです。どちらも経済的なメリットによって、社員のモチベーションを高めることができます。このように、IPOは心理的・経済的な両方の側面のメリットを期待できるでしょう。
スタートアップがIPOを目指すことには、デメリットもあります。ここでは3つのデメリットを紹介します。
IPOを実現するには、証券取引所の厳しい審査基準をクリアする必要があります。経営基盤の強化や社内の制度・管理体制の変更など多岐にわたる準備が必要で、数年単位の時間と大きな出費が伴うでしょう。
また、上場後も、企業には新たな義務や責任が発生します。四半期ごとの決算発表や株主総会への対応、IR活動など、未上場企業にはない義務や責任が増え、継続的な費用も発生します。
IPOを行うと、株主に対応する手間やコストが発生します。大勢の株主が企業の所有者となるため、配当金の増額や経営戦略の見直しなど、株主の意見を経営方針や事業内容に反映する必要が生じます。場合によっては、経営の自由度が制限される可能性があるでしょう。
さらに、上場企業には有価証券報告書や四半期報告書などの情報開示が義務付けられています。書類の作成や株主総会の開催に伴う手間やコストがどれくらいかかるのか、ある程度想定しておく必要があるでしょう。
IPOは資金を集めやすくなるというメリットがある反面、株式が公開市場で取引されるようになるため、ほかの企業や投資家が経営権を握ってしまう可能性が出てきます。これを「敵対的買収」と呼びます。
買収リスクを回避するためには「買収防衛策」を講じることが大切です。たとえば、特定の株主に議決権を集中させたり、自社株買いを行ったりする必要があるでしょう。
単に売上を伸ばすだけでは、IPOは達成できません。上場企業には収益性だけでなく、さまざまな責任や社会的役割が求められるためです。
ここではスタートアップがIPOを目指すうえで強化すべきことを紹介します。
スタートアップは投資家に対して、将来的に利益を還元できることを説得力のある形で説明しなければなりません。そのためには、事業計画の策定や財務状況の改善、内部統制の強化など、多岐にわたる準備が必要です。
スタートアップには、グロース市場上場という選択肢もあります。グロース市場への上場の場合は、利益や黒字化が必須条件ではないため、赤字であっても上場可能です。ただし、赤字での上場にはより高い成長性が求められ、証券会社や投資家にも理解・納得してもらう必要があります。
IPOを目指す企業は、ビジネスモデルが既存の法律や規制に抵触していないか、将来的にも法令遵守を継続できる体制を構築しているかを証明しなければなりません。スタートアップは新しい領域でビジネスを展開していることが多く、法規制が未整備または日々変化している場合もあるためです。
また、スタートアップはビジネスモデル自体も時流や顧客の反応に合わせて変化することが多く、柔軟な対応が求められます。ビジネスモデルの構築段階から、法律専門家の意見を取り入れることが望ましいでしょう。
IPO準備には大きく分けて「経理」「ファイナンス」「総務・法務・労務」という3つのタスクがあり、それぞれ専門的な知識と経験を持った人材の確保が重要です。たとえば、経験豊富なCFOや会計士、弁護士、IR担当者などを確保する必要があるでしょう。
IPOを取りまとめることができる人材は、市場において非常に希少です。そのため、IPOを目指すスタートアップは、早めに採用活動を行うことが重要です。一般的には、上場準備責任者が管理部長として上述した役割のどれかを兼務します。特に資金調達の観点から、CFOが責任者としてファイナンス機能を兼務するケースが多いです。
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IPOでは、財務状況の透明性と信頼性が厳しく評価されます。そのため、正確な会計処理に基づいた財務諸表の作成と、将来の業績予測を行うための予実管理体制が求められます。予算実績の差異を把握し、合理的な説明ができる体制を整えるためにも、タイムリーで正確な会計記帳が行える経理体制の構築が重要です。
また、上場企業は四半期ごとに業績予想を公表する義務があります。実績が予想を大きく下回った場合、投資家からの信頼を失い、株価が下落する可能性があるでしょう。市場環境やリスク要因、ビジネスモデルを考慮した、達成可能で合理的な予算を策定することが重要です。
バックオフィスは会社全体を支える屋台骨ともいえ、多岐にわたる役割を果たします。人材採用や予実管理はもちろんのこと、労務、法務、総務など、それぞれの専門知識を必要とする業務を法令遵守のもと行い、企業活動を支えます。
特に会計処理は、企業の財務状況を正確に把握し、投資家に透明性の高い情報を開示するために重要です。会計処理や内部統制の整備には相応の時間がかかるため、上場準備の早い段階(N-2期)からバックオフィス体制の構築に着手する必要があるでしょう。
上場企業には、投資家保護の観点から、適切なガバナンス体制と法令を遵守した経営が求められます。ガバナンス体制の構築において重要なのは、取締役会や監査役会といった機関が、経営の監視と健全な意思決定を行えるかどうかです。一部の経営陣の独断を防ぎ、多様な意見を反映できるチェック体制の構築が重要となります。
ガバナンス・コンプライアンス体制の整備にも時間がかかります。上場準備の初期段階から重要性を認識し、計画的に体制構築に取り組みましょう。
スタートアップがIPOを目指すには、あらかじめスケジュールを把握しておくことが大切です。IPOには複雑な書類の準備や環境の整備などが必要になるためです。
ここでは具体的なスケジュールについて解説します。
「直前々々期」(申請期の3期前の期)はIPOに向けた準備を本格的に開始する時期であり、基礎固めを行う重要な期間です。まず、監査法人によるショート・レビュー(予備調査)を実施し、IPOに向けた課題を洗い出します。ショート・レビューの結果を踏まえ、必要な対応策を検討することで、本監査をスムーズに進められます。
プロジェクト・チームを設置し、主幹事証券会社を選定することも重要です。プロジェクト・チームは上場準備のタイムスケジュールを立て、各担当者への役割分担、進捗管理などを行います。主幹事証券会社はIPOに向けた準備全般を指導・助言してくれる重要なパートナーであり、早期に選定することで上場手続きをスムーズに進められます。
「直前々期」(申請期の2期前の期)は上場後を見据えた社内管理体制の構築が重要です。具体的には、利益管理制度や業務管理制度、組織運営体制、会計制度など、内部統制の強化を行う必要があります。また、上場企業としての要件を満たすために、特別利害関係者との取引解消や関係会社の整理を行います。さらに、J-SOX(内部統制報告制度)への対応を準備する必要もあります。
この段階で、上場する市場の選定も行います。市場によって上場の基準や審査内容が異なるため、企業の規模や業績、将来性などを考慮して、適切な市場を選ぶ必要があります。監査法人や主幹事証券会社と定期的にミーティングを実施し、指導・助言を受けることも重要です。
直前期は直前々期に構築した管理体制を実際に運用し、上場準備が本格化する時期です。上場申請に必要な書類の作成も本格化します。「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」や「有価証券届出書」、「目論見書」などの書類を準備する必要があります。
特に「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」は企業の全体像を示す重要な書類であり、投資家の判断材料となるため、丁寧に作成する必要があります。申請時には、Ⅰの部に直前2期間分の財務諸表と監査報告書を添付する点にも注意が必要です。
申請期に入ると、主幹事証券会社の引受審査を受けます。証券会社が企業の事業の成長性、収益性、財務状況、内部統制、コンプライアンスなどを総合的に評価し、上場企業としてふさわしいかを確認します。引受審査の結果、問題がなければ定款の変更を行い、株式譲渡制限を外して公開会社にする準備を整えます。
そして、いよいよ証券取引所に上場申請を行います。証券取引所による審査が開始され、企業の事業内容、財務状況、内部管理体制など、多岐にわたる項目が厳格に審査されます。証券会社の引受審査に合格しても、取引所審査で不合格になるケースもあるため慎重な対応が重要です。
IPOを実現するうえでは、さまざまな準備や心構えが必要です。場合によっては、IPOに辿り着く前に資金がショートしたり、上場できてもさまざまな困難に直面したりする可能性があるでしょう。
そのため、以下ではスタートアップがIPOを成功させるためのポイントを3つ紹介します。
IPOは企業経営者が目指すべきゴールではなく、上場企業として成長を続けるためのスタートラインであるという認識が重要です。短期的な収益だけでなく、企業が中長期的に成長を持続するための明確なビジョンを持ちましょう。
ビジョンを具体的に示すためには、中長期の売上高、利益額、拠点数、社員数、シェアなどを具体的な数字で設定することが有効です。たとえば、「5年後には売上高を現在の3倍に増やす」「10年後には海外に拠点を設立する」といった目標を設定することで、従業員は目標達成に向けて努力し、投資家は企業の成長性を評価できます。
IPOに向けて取り組むべきは、経営ビジョンやビジネスモデルの策定です。IPOは企業の成長を加速させる手段であり、実現には明確なビジョンとビジネスモデルが不可欠です。そのうえで株式公開時期と証券取引所の決定、主幹事証券会社の選定、コーポレート・ガバナンスの整備などの主要なプロセスを進めます。
さらに、株式公開準備室の設置、内部監査制度の確立、申請書類や審査資料の準備・作成などさまざまな課題を洗い出し、着実に解決していくことも重要です。弁護士や公認会計士、税理士などの専門家と連携し、アドバイスを受けながら、スケジュールに遅れず課題をクリアしていきましょう。
スタートアップは経営者が意思決定を集中して担っている場合が多いですが、上場企業には透明性が高く、客観的な意思決定を行うための体制が求められます。したがって、経営者の独断専行を防ぐためのチェック体制を整備する必要があるでしょう。
具体的には、内部統制を整備し、権限を分散することで、経営の柔軟性を維持しつつ業績の向上をはかります。たとえば、稟議制度を導入し複数人で意思決定を行うようにしたり、内部監査部門を設置し経営活動を監査する体制を構築したりする必要があります。
スタートアップにとってのIPOはゴールの一つであり、上場企業になるというスタート地点でもあります。スタートアップが上場企業を目指すには、早い段階からビジネスモデルや環境の整備が必要です。
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