黒字倒産とは、帳簿上の収支計算が黒字であるにも関わらず、手元にある資金(キャッシュ)不足によって支払ができずに倒産してしまうことです。「決算上では黒字なのにお金がない」という状況に陥り、困っている経営者の方も多いかもしれません。実は、黒字でもお金が足りなくて倒産してしまうケースはあります。
では、黒字倒産はどんな時に起こるのでしょうか。兆候の見抜き方や対策方法、資金繰りの改善方法についてご紹介します。
まず、黒字倒産とはどんな状態なのかについてご説明します。
東京商工リサーチの調査によれば、2020年に黒字倒産した企業は46.76%でした。黒字倒産する企業は年々減ってきてはいますが、決して少ない数ではありません。
また、倒産していない企業のうち、赤字企業は23.39%(2020年)でした。倒産企業とは異なり、生存企業中の赤字企業の割合は年によって大きな変化はないことがわかります。
※赤字企業ではない企業を黒字企業としています。
参考:東京商工リサーチ「2020年「倒産企業の財務データ分析」調査」
赤字経営とは、収益よりも費用が多い状態のことです。例えば、売上高などの収益から、人件費や仕入れなどの経費、減価償却費などをすべて差し引き、当期利益がマイナスになっているときは赤字経営だと判断できます。一方、黒字経営とは赤字経営とは逆の状態のことです。人件費などの経費や減価償却費などをすべて合算した金額が収益よりも少ないと、黒字だと判断できます。
決算上では黒字でも、資金繰りが困窮して、各種費用の支払いができなくなるケースがあります。
例えば、売上が増えると在庫を増やしたり従業員を雇ったりなど、前払いでの支払いが増えます。その一方で、サービスや商品の提供から実際の売掛金の回収には時差があるため、その間で資金繰りが苦しくなるケースです。このようなケースで、取引先へ支払いができなくなったり、従業員へ給料が支払えなくなったりすれば倒産につながる可能性があります。
自己資本比率に気を付ける経営者は多いですが、現金比率にも注目する必要があります。中小企業は現金をなるべく多く準備しておくことで、黒字倒産を防ぐことが可能です。現金が多く用意できていれば、資金繰りが悪化する局面になったとしても、現金で対応できます。
決算上は黒字であっても、資金繰りが悪化し、仕入れや買掛金の支払いなどができなくなると黒字倒産することになりかねません。とはいえ、いきなり黒字倒産することはあまりなく、黒字倒産の兆候やリスクに対して適切な対応をしない場合に、黒字倒産を回避できない状況に追い込まれる可能性があります。黒字倒産の兆候やリスクを察知する方法としては、次の3つが挙げられます。
それぞれの方法を通して、どのように黒字倒産のリスクを察知するのか解説します。
損益計算書では売上などの収益と売上原価などの費用から損益を算出しているため、ある程度の収支状況の確認が可能です。また、損益計算書では当期利益(純利益)も表示されるため、赤字か黒字かも一目で理解できます。
ただし、損益計算書では棚卸資産の在庫管理まではできません。そのため、過剰在庫があり、販売と仕入れがうまく回転していない場合でも黒字として表示されることがあります。常に在庫の回転状況にも留意しつつ、収支バランスを見極める際に活用しましょう。
キャッシュフロー計算書では、自由資金比率を確認できます。自由資金比率は会社のキャッシュフローにどの程度の余裕があるのかを示す数値です。定期的にキャッシュフロー計算書を確認することで、営業活動に利用できる資産が潤沢にあるのか把握できます。
1年間のまとめとして作られる損益計算書や貸借対照表とは異なり、キャッシュフロー計算書は1年間のお金の流れに注目して作成される決算書類です。年間の営業活動と投資活動、財務活動を見直す際にも活用できます。
貸借対照表では、純資産と負債のバランスを一目で確認することができます。簡単に会社の安全性を調べたいときは、自己資本比率に注目しましょう。自己資本比率は以下の計算式で求めます。
自己資本とは返済の必要がない資本のことです。自己資本比率が高ければ、利益が上がらないときでも返済不要の自己資本を使って運転できるため、中長期的に見て倒産する可能性が低いと判断できます。
当期利益がマイナスになり、赤字になると、営業活動の継続が難しいことを客観的に理解できるようになります。しかし、黒字倒産は当期利益がプラスの状態で起こるため、事前に察知しにくく、気付いたときには手の打ちようがない状態に追い込まれているケースもあるでしょう。
黒字倒産を回避する方法としては、次のものが挙げられます。
それぞれの方法により、黒字倒産をどのように回避できるのか解説します。
経営の健全性や倒産リスクについて、常に把握していることが必要です。次の3つを定期的に実施し、会社の状況を正確に理解しておきましょう。
損益計算書などの帳簿上では黒字でも、手元にキャッシュがない状態に陥ることがあります。すぐに動かせる資金がないと、仕入れができなくなるため、営業を続けることが難しくなるでしょう。また、買掛金の支払いができず、取引先から信用を失うことにもなりかねません。
常に手元にキャッシュを保有するためにも、資金繰りの管理は不可欠です。次の数値を常に表示し、資金繰りの流れを可視化できるようにしておきましょう。
また、資金繰りを管理するためには、必要に応じて資金調達することも不可欠です。例えば、金融機関から融資を受ける、使用していない資産を売却して現金化する、株式を発行して増資するなどにより資金調達できます。
なお、融資によって資金調達した場合は、返済計画も併せて立てることが必要です。返済期間が1年未満の短期資金と、返済期間が1年以上になる長期資金に分け、それぞれ無理なく返済できるように計画を立てておきましょう。
入金と出金のタイミングがうまく調整できていないと、手元にキャッシュを保有できず、仕入れや買掛金の支払いに響く可能性があります。出金タイミングを遅らせること、そして入金タイミングを早めることにより、キャッシュフローに余裕が出るように調整しましょう。
ただし、入出金のタイミングはスケジュール通りに進むわけではありません。取引先の資金繰りが思わしくなく、予定していたタイミングで売掛金を回収できなくなることがあります。
そのような場合は、たとえ厳密な資金スケジュールを構築していても、資金繰りに問題が生じ、場合によっては黒字倒産を招くことにもなりかねません。ある程度は余裕を持ったスケジュールを構築する、早めに取引先に支払いを請求するなどの工夫も必要になります。
在庫を抱えすぎると、損益計算書の上では黒字でも経営が危なくなることがあります。損益計算書では在庫は経費として計上されないため、過剰在庫を抱えないように常に正確に在庫管理をしていることが必要です。仕入れのタイミング、販売状況などを今一度見直してみましょう。
資金繰りの改善方法には、どんな方法があるのでしょうか。
売掛金の回収サイトの見直しは、有効な資金繰り対策です。売掛金の回収が早くできればできるほど、資金繰りは楽になります。売掛金のサイトが長い取引先があれば、短縮してもらえるように交渉しましょう。
但し、スタートアップ・中小企業においては、取引先との力関係が弱いことが一般的なので、回収サイトの見直しが難しい可能性もあるでしょう。
支払いサイトを伸ばしてもらうことで、資金繰りを楽にすることができます。支払期日までの期間が短い取引先には、支払いサイトを延ばせないか聞いてみてもいいでしょう。
但し、取引先から資金繰り状況に懸念をもたれ、今後の取引に影響がでるリスクがあることが把握しておきましょう。
在庫が多くなるほど資金繰りは苦しくなります。特に、利用できる価値がない不良在庫はそのままにしておかず、早めに処分しましょう。また、固定資産を現金化することで現預金比率を高めることができます。固定資産を減らすことは、貸借対照表のスリム化にもつながるので、リースで利用できるものはないかなど検討してみてはいかがでしょうか。
資金調達を行うことで、資金繰りの改善に繋げることも可能です。次の章では、具体的にどんな資金調達方法があるのかをご説明します。
ここでは、スタートアップや中小企業が活用したい資金調達の種類についてご説明します。
銀行からの融資は、最も想像しやすい資金調達方法といえるのではないでしょうか。フローとしては、銀行に融資を申し込んだ後、銀行の審査が行われます。そして、その企業と取引をして問題ないかという格付を行った後に、案件ごとの審査を行います。そのため新規で申し込む場合は、融資実行までに早くて3週間から1カ月程度の時間がかかります。
銀行融資は、長期での借り入れが可能で利息も他の資金調達方法に比べて安いというメリットがあります。その一方で、審査は厳しく、特に小規模の企業や創業間もない企業は担保や保証人が必要になることがほとんどです。
ファクタリングは、欧州ではメジャーな資金調達方法です。日本でも近年注目され始めました。掛売り取引で生じた売掛債権をファクタリング業者に買い取ってもらい、支払期日より前に資金化を行なうことで資金調達ができます。審査が早く、ファクタリング業者とファクタリング利用者で契約を結ぶ2者間ファクタリングの場合は、最短即日~1週間程度で資金調達が可能です。ただし、ファクタリングは貸金業ではないので手数料等の法律上の上限はありません。そのため、調達にかかるコスト(手数料)は融資に比べると高くなる傾向にあります。
ただし、最近では2者間ファクタリングでも手数料0.5%~というものもあります。担保・保証人の差し入れの必要もなく、売掛先企業が貸し倒れても弁済する必要がないのもメリットです。一刻も早く資金調達したいという場合には検討してみてください。
▼より詳しく知りたい方は、以下の記事もご参考ください。
「2者間ファクタリングのメリット・デメリット」
補助金や助成金は、事業内容などが国や機関に認められることで資金が支給される制度です。融資ではないので、返済の必要がないというのが大きなメリットといえます。ただし、何枚にも及ぶ事業計画書を作成する必要があるので、手間がかかると感じる方もいらっしゃるでしょう。早期資金調達が必要なく、事業計画書を作成する余裕がある場合には、適している資金調達法といえるのではないでしょうか。
▼より詳しく知りたい方は、以下の記事もご参考ください。
「補助金と助成金の違いは?申請の手順や注意点も解説」
理論上は黒字でも、手元キャッシュがなければ倒産する可能性もあります。資金繰り改善の方法はいろいろあるので、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。
また、資金繰りを安定させる資金調達としては、銀行融資・ファクタリング・補助金/助成金などがあります。貴社の状況にあった資金調達方法を選びましょう。
▼より詳しく知りたい方は、以下の記事もご参考ください。
【資金調達の方法】各方法のメリットや注意点を法人・個人別に解説
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