起業や創業を検討している時に課題となるのが、事業資金の調達についてです。
低リスクかつ長期で事業資金を借り入れたいなら、複数の調達手段を比較検討する必要があります。資金調達の代表的な方法は、返済が伴う「融資」と、返済不要の「出資」です。今回は資金調達の種類や選び方、必要な事前準備について解説します。
新たに会社をおこす際は土地の購入や建物の建設、機械設備の導入、オフィス機器の調達などに多額の資金を投入します。製品の開発・製造費、販促の広告宣伝費まで考慮すると、ある程度まとまった資金が必要となります。
資金調達のベースとなる考え方は「負債を増やす」「資本を増やす」の2つが挙げられます。一口に外部から資金の調達を受けるといっても方法はさまざまです。
負債による資金調達はデットファイナンスとも呼ばれ、銀行や自治体からの融資、社債の発行などが代表的な方法です。第三者の資本を活用してビジネスの拡大を目指せるにもかかわらず、出資元による経営への干渉を防げます。ただし元本に加えて利息の支払い義務も生じることに注意が必要です。
「資本を増やす」とは、第三者から投資を受けることで、エクイティファイナンスとも呼ばれます。外部から資金の調達を受けるのはデットファイナンスと同様ですが、こちらは返済義務がないのが特徴です。自己資本の利用のほか、ベンチャーキャピタルや株式投資型クラウドファンディングの活用などが挙げられます。
日本政策金融公庫の2022年度新規開業実態調査によれば、起業費用の平均値は1,077万円、資金調達額の平均は1,274万円でした。開業後に、事業を拡大するために資金調達を行う企業も少なくありません。
起業に必要な資金額は業種の影響も受けるのが特徴です。事務所や従業員の採用に加えて、設備の調達が伴う飲食店のようなビジネスでは、1,000万円以上必要となる場合も珍しくありません。
開業業種でみるとサービス業が29.4%で最も多く、次点で16.4%の医療・福祉、13.8%の小売業と続きます。
資金調達の方法としては、金融機関等からの借り入れと自己資金によるものが大半です。金融機関等からの借り入れが平均882万円で、自己資金が平均271万円と、全体の90%以上を占めます。
業種やビジネスの規模によって必要な起業資金額は異なるので、事業内容を細部まで決めたうえで、どの程度の資金調達を行う必要があるかを考えましょう。
資金調達の主な方法は「融資」「出資」「補助金・助成金の活用」の3つです。融資は出資元に返済義務があり、出資は無償で借りられます。
補助金や助成金も返済は不要ですが、金融機関や公的機関の審査を通過する必要があります。具体的な資金調達の種類や特徴は以下のとおりです。
融資は、返済の義務がある資金調達の方法です。主な借り入れ先は日本政策金融公庫や銀行等の金融機関が挙げられますが、制度融資を活用することも可能です。
作成した事業計画書を各金融機関の窓口に提出して、審査をクリアするのが一般的な流れです。代表的な3つの融資方法について、特徴やメリット、注意点を紹介します。
日本政策金融公庫は、国の100%の出資によって成り立つ政府系金融機関です。起業・開業時に利用できる融資制度として「新創業融資制度」があります。
こちらは創業やスタートアップの支援が狙いで、無担保・無保証人で利用できるのが特徴です。対象者は新たに事業を始める人、事業を開始してから2期分の税務申告を終えていない人で、融資限度額は3,000万円です。
他にも女性や35歳未満、55歳以上の人が対象の「女性、若者/シニア起業家支援資金」、生活衛生関係の事業創出時に利用可能な「生活衛生新企業育成資金(新企業育成・事業安定等貸付) 」など特化型の補助金もあります。
日本政策金融公庫の融資は、他の機関で援助を受けにくい中小企業や小規模事業者向けであるのが特徴です。まだ実績がない起業家でも資金調達を実現しやすいのがメリットです。
大規模な融資を一括で受けられるほか、申し込みから融資を受けるまでも迅速で、借入先としてまず検討すべき手段だといえます。
デメリットは後述する制度融資と比べると、金利が高くなりやすい点です。とはいえ民間の融資と比較すると利率を抑えられる傾向があるので、積極的に利用したいところです。
民間経営の銀行から融資を受ける方法で、プロパー融資と信用保証融資の2種類に分かれます。
銀行から直接資金を借り入れるプロパー融資は返済が滞った場合のリスクを融資元が背負うので、審査基準が厳しい傾向があります。新たに事業を開始する際の活用は難しい場合があります。
起業や創業時に推奨したいのは、信用保証つきの融資です。全国信用保証協会連合会が保証人になり、仮に返済が滞ったとしても連合会が支払いを行います。
返済額の80~100%を保証し、不渡りが生じた場合でも銀行の被るリスクが少ないため、審査の基準も緩い傾向にあります。
デメリットは銀行に支払う金利に加えて、信用保証協会が定める保証料を負担する必要がある点です。
制度融資は地方公共団体と信用保証協会、金融機関が連携して行う融資制度で、長期の借入・低金利が魅力です。中小企業や小規模事業者が自治体を経由して制度融資の申し込みを行い、連携している金融機関が保証協会に保証を依頼します。
利用者は協会に対して保証料を支払う義務がありますが、自治体によっては一部補助を受けることが可能です。
実績が乏しく事業を開始して間もない場合、企業の信用度に応じて金利が決まるプロパー融資と比べて、低金利になりやすいでしょう。
また、長期間の借り入れにも適しています。たとえば埼玉県が提供する制度融資では設備資金に関しては最長15年、運転資金の場合は最長10年まで借り入れで可能です。
自治体の援助が入ることもあり、日本政策金融公庫の融資と並んでハードルが低い方法でもあります。信用保証協会が提供する、中小企業や小規模事業者の経営改善に向けたさまざまな支援制度を活用できるのも利点です。
デメリットは、申し込みから融資実行まで時間を要する傾向があることです。申込先の地方自治体以外にも金融機関や信用保証協会も融資に関わり、関係者が多いため、手続きが複雑に感じるかもしれません。
出資とは、成長を期待する団体や事業に対して、資金を援助することです。主な出資元はベンチャーキャピタルや個人投資家、クラウドファンディングが挙げられます。
出資によって調達した資金は原則、返済義務はありません。ただし通常だと出資者は出資先の株式を保有し、会社の経営に影響力を持ちます。ここでは代表的な3つの出資方法について、特徴やメリット、注意点を紹介します。
ベンチャーキャピタルは、上場を見据えて大きく事業展開を目指す場合に適した方法です。出資条件が厳しい傾向があり、事業フェーズや企業規模、成長性によって選ばれます。
そのため起業直後の資金調達にはあまり適しておらず、出資時にはベンチャーキャピタルの経営方針に従う必要があるのも難点です。
メリットは経営アドバイスや、顧客・ビジネスパートナーの紹介も期待できることです。
ベンチャーキャピタルの存在意義は、企業売却や株式売却のために、事業を成長させることです。使える経営資源や事業拡大の新たなアイデアの提供をはじめ、経営陣の年齢が若い傾向にあるベンチャーやスタートアップの起業家のサポートも期待できるでしょう。
個人投資家の自己資金による出資を受ける方法もあります。例として、起業して間もない企業の成長性を期待して投資する、エンジェル投資家の活用が挙げられます。
金融機関や公的機関の審査を受ける必要がなく、出資までのスピードが速いのが特徴です。また、個人資産が源泉なので返済期限に猶予を持たせやすいのも利点です。
調達額の規模感としては、ベンチャーキャピタルと、後述するクラウドファンディングの中程度だといえます。また、ベンチャーキャピタルと同様、エンジェル投資家は出資先の株式を取得し、価値向上による利益の獲得を目指して、経営に関するアドバイスを行う場合があります。
一般的にエンジェル投資家が資金を提供する事業フェーズは、プロダクトやサービスが形になっていない段階、もしくは事業の立ち上げを目指す創業段階です。
アイデアの実現性や将来性などの期待度に加えて、起業家自身の情熱やポテンシャルも投資の判断材料になり得ます。
事業計画の概要と人柄を兼ね備えていれば、銀行からの融資が難しい状態でもスピーディーな資金調達が実現する可能性があります。
クラウドファンディングはインターネット上のプラットフォームを活用して、実現を目指す事業やアイデアへの想いを語り、賛同を得た一般の人から少額での資金を募る方法です。
SNSでの発信を通じて創業前の段階でも知名度を高められるほか、全国各地でファンを育成できます。ただし一口ごとの金額が小さくなりやすく、希望調達額を確保できるとは限りません。
クラウドファンディングの知名度は高まり、ライバルの数も増えつつあります。製品・サービスの強い独自性や、共感を生むようなストーリーがなければ、ユーザーの協力を得ることは難しいでしょう。
クラウドファンディングを成功に導くポイントは、信頼できるプラットフォームを選ぶことです。過去の実績や口コミを事前に確認し、良質なサービスを扱う事業者を見つけましょう。
国や地方自治体などが実施する補助金や助成金の活用も、資金調達の代表的な方法です。申請が受け入れられれば返済不要で、スピーディーに事業資金を確保できるのは大きな利点です。
起業時に活用できる補助金の例として、経済産業省が管轄する、中小企業や小規模事業者による革新的なサービス開発や設備投資が対象の「ものづくり補助金」や、生産性を高めるツールの導入に対して補助を受けられる「IT導入補助金」などがあります。
補助金と助成金の違いとしては、受給の難易度および申請期間が挙げられます。助成金は融資条件を満たせば受給できる可能性が高いのに対して、補助金は予算や採択の上限が確定しており、申請の順番次第では要件に合致しても受給できない場合があります。
補助金は申請期間も短くなりやすく、使いにくいと感じる場合があります。一方助成金は支給条件の行動や商品の購入を行ってはじめて支給を受けられるため、申請からのタイムラグが生じやすいのがデメリットです。創業や起業時に今すぐ資金を確保したいケースにはあまり向いていないでしょう。
助成金や補助金は日々制度が移り変わるので、最新の情報を入手することが非常に大切です。金額が低いわりに申請に時間を要するタイプを選んでしまうと、事業の発展を阻害する恐れがあります。
まずどのような事業を行うのか、その事業のためにどの程度の資金が必要なのかを明確にし、そこから資金調達の難易度・期間・リスクを判別しましょう。上記の分析を通じて、それぞれにあった資金調達を選択します。
コネクションを活用して独立後の案件を確保しているような堅実なビジネスモデルの場合、銀行からの融資がおすすめです。低金利で計画的な返済が可能なため、経営を圧迫するリスクが低いからです。
新たなアイデアやプロダクトを武器に急成長を目指すスタートアップやベンチャーの場合は、エンジェル投資家の活用を検討してみるものいいでしょう。経営計画に理解を得られ、人柄等がマッチすれば、スピーディーに多額の資金を確保できる可能性があります。
調達額を軸に考えると、大規模な資金調達を求めるならベンチャーキャピタル、調達希望額が少ないならクラウドファンディングの活用がおすすめです。制度融資は多額の調達が可能でハードルも低い方法ですが、融資を受けるまでの時間がかかる点がデメリットといえます。
以上のようにいつまでに、いくら必要なのかによって、調達に適した方法が異なります。まずは自己資金の活用を考え、不足分を出資や融資で補う方法もあるでしょう。また、今回紹介した方法以外にも自己資本の活用や、友人・知人からお金を借りる方法もあります。知人に借りる場合は、お互いに内容を確認し、誓約書や契約書を残しておくことをおすすめします。
資金調達の場合、説得力のある事業内容や明確な資金の使いみち、返済計画などを立てることが重要です。
過去の実績がなければ、金融機関やベンチャーキャピタルは、事業内容や将来の見込み利益などの情報からでしか、融資・出資の可否を判断できません。
事業計画書の具体性や正確性をどれだけ高められるかが、資金調達を成功させる肝です。とはいえ、作成の経験がないと何から初めて良いか、アピールすべきポイントはどこかなど疑問点や不安が噴出します。
端的に言うと、はじめに事業の大枠を書き出し、細かい部分は徐々に詰める方針で行うのがコツです。
事業計画の策定では概要だけでなく、周辺状況や収支計画まで幅広い事項を考慮する必要があります。
細部の項目に目が行き過ぎると、いつまで経っても計画が具体的になりません。まずは目標を決め、事業の全体像を書き出すことから始めたほうが効率的です。
大枠を定めた後に、細部の項目や根拠を徐々に肉付けしていけば、具体的で説得力のある返済計画の立案につながります。
計画書の作成が初めての場合はフォーマットの活用を推奨します。日本政策金融公庫は創業計画書のテンプレートを準備しており、Webサイトから入手可能です。必要な項目が網羅されているので、参考にしてみましょう。
日本における起業費用の平均値は1,077万円、中央値は550万円です。上記の金額を自己資金のみで賄うのは並大抵のことではなく、資金援助を求めるケースがあります。
返済が必要な融資の主な借入先は、日本政策金融公庫や銀行、制度融資などです。また返済不要の出資の場合、ベンチャーキャピタルや個人投資家のほか、クラウドファンディングの活用が挙げられます。
事業形態に合った資金調達方法を選ぶことが重要です。必要な資金を無理なく確保するには、まず事業内容を具体化し、いつまでにいくら必要なのか、できる限り明確に決めましょう。
事業計画書の内容次第で審査の通過角度は変わるので、書き方には十分気をつけてください。
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