仕入税額控除とは、消費税の計算において課税売上に対する消費税額から課税仕入にかかる消費税額を差し引く仕組みであり、納税額を適切に調整するための制度です。
インボイス制度が導入されてから、仕入税額控除を受けるための要件や手続きが厳格化されています。取引における適格請求書の管理が不可欠であり、事業者は税務処理において慎重さが求められるでしょう。
本記事では、仕入税額控除の基本的な仕組みやインボイス制度における適用要件、計算方法についてわかりやすく解説します。
仕入税額控除(しいれぜいがくこうじょ)とは、消費税額の計算において、課税売上に含まれている消費税額から課税仕入れに含まれている消費税額を差し引くことをいいます。
消費税はモノやサービスを取引する際に課せられる税金で、購入した側(=消費した側)が負担し、売却した側を通して納付されます。原材料を販売するだけなど1回の取引だけで終われば、消費税が発生する場面は1つだけになり、計算が複雑化することや二重に消費税が発生することはありません。
しかし、実際の流通過程や製造過程においては、原材料生産業者と製造業者との間、製造業者と卸売業者との間、卸売業者と小売業者との間、小売業者と消費者との間といった複数の取引が発生し、その度に消費税が発生します。特に中間業者は購入時には消費税の支払い、販売時には消費税の預かりがあるため、より複雑になるでしょう。
仕入税額控除を実施することで、売上によって発生した消費税から仕入によって発生した消費税を差し引き、差額の消費税だけを申告・納付することになるので、2重に支払うことなく、正しく消費税を納付することができます。
仕入税額控除を適用するためには、「帳簿」と「適格請求書」の保存が必要です。それぞれの保存要件を確認しておきましょう。また、「帳簿」と「適格請求書」は、その事業年度終了の2か月後(消費税の申告期限)から7年間は保存しなければなりません。
【帳簿の保存に必要な記載事項】
仕入税額控除の対象取引を帳簿に記録する際、以下の項目への記載が必要です。
帳簿の形式に決まりはありませんが、手書きや会計ソフトを用いて作成する場合にも正しい記録が求められます。取引の詳細については、摘要欄を活用することで後の確認が容易になります。
【適格請求書の保存に必要な記載事項】
適格請求書(インボイス)は、控除対象取引であることを証明する書類です。以下の情報の記載が必要です。
適格請求書は請求書だけでなく、領収書なども含まれる場合があります。登録番号の有無を確認することが重要です。
仕入税額控除の対象となる取引には、以下のものが挙げられます。
このように多くの購入、貸借、支払などには消費税が発生しています。これらの取引が仕入れであれば仕入税額控除の対象となり、売上によって生じる消費税から差し引いて申告・納税することが可能です。
仕入税額控除には、次の4つの計算方法があります。
それぞれの計算方法の違いと、どのようなケースで利用できるのか解説します。
課税売上高が5億円以下で、なおかつ課税売上の割合が95%以上の場合に使われるのが、全額控除方式です。
全額控除方式とは、課税期間中に発生した課税売上の消費税額から、同じ課税期間中に発生した課税仕入れなどによって発生した消費税額を全額控除する方法です。課税仕入れにかかった消費税をすべて控除でき、なおかつ計算をまとめて行うため手間がかからないというメリットがあります。
課税売上高が5億円を超えている場合、あるいは課税売上の割合が95%未満である場合は、個別対応方式か次に紹介する一括比例配分方式のどちらかを選択可能です。
個別対応方式では、課税仕入れを
「A:課税売上のみに対応する仕入れの消費税額」
「B:非課税売上のみに対応する仕入れの消費税額」
「C:課税売上と非課税売上のいずれにも対応する仕入れの消費税額」
の3つに分け、以下の計算式で仕入税額控除額を計算します。
仕入税額控除額=A+C×課税売上の割合
計算は全額控除方式と比べると複雑になりますが、課税売上にかかる課税仕入れが多いと控除できる金額も大きくなるという特徴があります。
一括比例配分方式では、課税仕入れを3つの区分に分けずに計算します。
実際に計算をしてから、個別対応方式と比べて有利な計算方式を選択することが可能です。ただし、一度、一括比例配分方式を選択すると、2年間は計算方式の変更ができないため注意しましょう。
課税期間の前々年もしくは前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下で、なおかつ「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している場合は、簡易課税方式で仕入税額控除額を計算することができます。計算方法は以下のとおりです。
みなし仕入率は、事業内容によって決まっています。例えば卸売業者で、課税期間中の売上にかかっていた消費税額が300万円であれば、仕入税額控除額は300万円×90%=270万円です。
簡易課税方式を選択すると、仕入れにかかった消費税額を計算する必要がありません。計算が簡単になり、消費税の申告・納付の手間も削減できます。
課税対象とならない取引が多い場合は、みなし仕入れ率で計算すると仕入税額控除額が少なくなる可能性があります。また、届出を提出していないときには利用できない点も注意が必要です。
インボイス制度により、適格請求書のない取引では、支払った消費税相当額を控除できない、もしくは一部しか控除できない問題が発生するため、注意が必要です。
ここでは、一般課税方式における「適格請求書と他の請求書が併存する場合」の管理方法と、「適格請求書」ではない請求書を受け取った際の会計処理について解説します。
インボイス制度施行後、経過措置はあるものの適格請求書発行事業者との取引のみが仕入税額控除の対象となるため、適格請求書とその他の請求書の管理方針を明確に定める必要があります。
適格請求書とそれ以外の請求書では、仕入税額控除の計算方法が異なるため、両者を正確に区別して管理しなければなりません。これを怠ると、計算ミスや経理業務の混乱を引き起こす可能性があります。
まず、取引先が適格請求書発行事業者かどうかを事前に確認し、その情報を適切に記録・更新する仕組みを整えることが重要です。また、適格請求書とその他の請求書を分けて保管し、それぞれに対応した仕入税額控除の計算を確実に実行できる体制を構築する必要があります。
適格請求書を受け取れない取引においては、消費税の仕入税額控除が経過措置期間中に限り、一定の割合で認められます。(経過措置の詳細については後述します)
2023年10月1日から2026年9月30日までは、仕入税額相当額の80%が控除可能です。さらに2026年10月1日から2029年9月30日までは、その控除率が50%に変更されます。
それらの会計処理については、次の2つの方法があります。
ここでは、仕入税額相当額の80%を控除するケースにおける、これらの仕訳方法について解説します。
消費税の仕入税額控除が適用できない場合、該当費用に消費税額を上乗せして仕訳を完結させる方法があります。この処理方法は、取引時点で仕訳を確定させる必要がある場合に用います。
例えば、4万円の課税仕入に対する消費税額が4,000円の場合、経過措置により消費税額の80%である3,200円が控除可能です。一方で、控除できない800円については事業者負担として費用に上乗せして計上します。
【取引時】
もう一つの方法として、決算時の「雑損失」処理があります。取引時点では通常通り仕訳を行い、仕入税額控除の適用ができなかった分を決算時に雑損失で処理する方法です。
課税事業者との取引と同じく税抜方式で仕訳を処理しますが、決算時に「免税事業者」の仕訳を抜き出す必要があります。そのうえで、支払い総額に控除対象外となる税額(20%)を掛け合わせ、決算時の仕訳を行います。
【取引時】
【決算時】
インボイス制度の導入により、免税事業者からの課税仕入についても6年間の経過措置が設けられ、事業者の負担軽減が図られています。以下では、この経過措置の詳細や計算方法について解説します。
免税事業者との取引では6年間の経過措置が適用されます。ここでは、経過措置の内容と、経過措置にもとづく仕入税額控除の計算方法について見ていきましょう。
インボイス制度の導入に伴い、これまで免税事業者であった小規模事業者も、今後の取引において消費税を納める必要性が生じてくるでしょう。
その際に、インボイス制度に対応した請求書や帳簿の準備など、事務作業の負担増加が予想されます。こうした事業者の負担を軽減するため、以下のような経過措置が設けられています。
【免税事業者からの課税仕入れに関する経過措置】
2023年10月1日から2026年9月30日までの間に発生する課税仕入について、仕入税額控除額を計算する際の手順は以下の通りです。
【計算式(消費税率7.8%+地方消費税率2.2%=10%)】
【具体例:税抜価格が10,000円(税率10%)の課税仕入を行った場合】
したがって、この課税仕入に対する仕入税額控除額は800円となります。
少額特例は、税込1万円未満の課税仕入について、インボイスの保存がない場合でも必要事項が書かれている帳簿を保存することで仕入税額控除を受けられる制度です。
【少額特例適用の条件(2023年10月1日~2029年9月30日)】
※基準期間:個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度※特定期間:個人事業者については前年1月から6月までの期間。法人については前事業年度の開始日以後6月の期間
具体的には、一回の取引で課税仕入にかかる金額(税込)が1万円未満かどうかで判定します。つまり、5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入して合計12,000円となるような場合は、少額特例の対象にはなりません。
請求書の受領が難しいなどの理由がある場合、以下の取引については、一定の情報を記載した帳簿の保存により仕入税額控除が認められます。
仕入税額控除は、売上に伴う消費税から仕入にかかる消費税を差し引く仕組みにより二重課税を防ぎ、事業者が実際に負担する消費税額を軽減することができます。
仕入税額控除を受けるためには、帳簿と適格請求書の保存が必要であり、インボイス制度によって適格請求書発行事業者との取引が求められるようになりました。
控除の計算方法には、全額控除方式や個別対応方式などがあり、事業の規模や内容に応じて選択できます。簡易課税方式を利用すれば計算が簡便になりますが、適用には事前の届出が必要です。
インボイス制度では、適格請求書と他の請求書を正確に区別し、適切な管理体制を整えることが、税務上のトラブルを防ぐために不可欠です。
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