請求書をペーパーレス化(電子化)することでコスト削減などのさまざまなメリットがあります。注意点やペーパーレス化を進める手順もあわせて説明します。
請求書をペーパーレス化(電子化)する企業が増えています。請求書のペーパーレス化とは、請求書発行システムなどを用いてオンライン上で請求書を発行し、電子データとして取引先に送付することを指します。改ざんなどを防ぐために、PDFファイルとして送る方法などがあります。
請求書のペーパーレス化が進んだ背景としては、特定の要件を満たせば電子データによる請求書の保存が認められるようになったことがあります。例えば、e-文書法や電子帳簿保存法では、それが認められるための要件を規定しています。
e-文書法とは、紙媒体での保存が義務付けられていた文書について電子データによる保存を認める法律です。e-文書法は通称であり、正確には2005年4月に施行された「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の二つの法律から成り立っています。
e-文書法により、会社法や商法、証券取引法、法人税法などで保管が義務付けられている文書は、いずれも紙媒体だけでなく、電子データでも保存できるようになりました。e-文書法では多くの法律を対象としていますが、e-文書法施行後に制定された法律に関する文書は対象外となっている点に注意が必要です。
電子帳簿保存法とは、国税関係帳簿書類について電子データによる保存を認める法律です。令和3年の税制改正において大幅な見直しが実施され、2022年1月に改正電子帳簿保存法が施行されました。
国税関係帳簿書類とは、請求書や納品書などの取引関係の書類や、損益計算書などの決算関係の書類などを指します。いずれも電子データとしての保存が可能になっただけでなく、2022年1月からは所轄税務署長の承認も不要になりました。
インボイス制度とは、2023年10月から施行される消費税の仕入税額控除の方式のことです。インボイス制度が開始された後は、適格請求書なしには仕入税額控除を受けられなくなります。
適格請求書は、紙書類で発行することも可能ですが、電子帳簿保存法の要件を満たす電子データによる発行も可能です。適格請求書は従来の区分記載請求書よりも必要記載事項が多いため、電子データとして発行することで、請求書作成にかかる負担軽減を図る企業も少なくありません。
電子化された請求書も、e-文書法や電子帳簿保存法の対象となる場合は、それぞれの要件を満たしたうえで正式な文書として認められます。また、請求書のペーパーレス化には、次のメリットがあります。
それぞれのメリットについて、具体的な例を挙げて説明します。
請求書を電子データとして作成すると、作成から送信までがワンストップで行えます。従来の方法では、出力した紙の請求書を封筒に入れて、切手を貼りポストに投函するという流れが必要だったことを考えると、大幅に工程が減り、業務が効率化されたといえるでしょう。
また、以前発行した請求書の閲覧が必要になるときがあります。相手企業の住所や適用単価を確認したいときなどは、該当する請求書を探さなくてはいけません。紙媒体で請求書を発行した場合、ファイルボックスに取引年月日順に整理して片付けている場合でも、取引が行われた正確な日が分からなければ、探すのに手間がかかるでしょう。
しかし、請求書を電子データとして作成するなら、キーワードに相手企業名を入力して検索するだけで、簡単に該当する請求書をパソコンの画面上に表示できます。書類を探す時間がかからなくなることも、ペーパーレス化による業務効率化の一例です。
請求書を電子データとして作成するためには、請求書発行システムなどを導入する費用がかかります。しかし、紙や印刷にかかるコスト、送付にかかるコストを削減できるため、長い目で見れば大きな経費の節約につながるといえるでしょう。
また、請求書などの証拠書類は長期にわたる保管義務があるため、収納用のファイルボックスや、ファイルボックスを整理する棚なども必要になり、さらにコストがかさみます。一方、電子データとして作成する場合は、すべてパソコンの中、あるいはクラウドデータとして保存するため、リアルな収納スペースは必要ありません。
なお、請求した金額を受け取ったときには、領収書を発行します。紙の領収書として発行するときは、5万円以上の取引については印紙税が必要です。しかし、領収書も電子データとして発行するときは、取引金額に関わらず収入印紙の貼付は不要になります。今まで収入印紙代がかさんでいる事業所なら、領収書もペーパーレス化することは必須です。
ペーパーレス化により、オンラインで請求・支払いができるようになると、取引におけるタイムラグがなくなります。よりスムーズな取引が実現し、効率良く業務を進めていけるようになるでしょう。
また、見積書や請求書などの書類をデータ化してオンラインで送付すれば、海外との取引もタイムラグなしに実現します。事業拡大を検討している事業所も、書類のペーパーレス化に取り組むことが必要です。
請求書のペーパーレス化にはメリットもありますが、デメリットもいくつかあります。特に次の2つのデメリットについては、ペーパーレス化する前に対策を立てておくようにしましょう。
それぞれのデメリットと検討できる対処法について説明します。
請求書のペーパーレス化には、請求書発行システムなどの帳票を作成するシステムが必要です。システムを導入する際には初期費用がかかるだけでなく、毎月の利用料も発生します。
請求書発行システムのコスト負担が気になるときは、一度、システム導入により削減できるコストと増えるコストについてすべて書き出してみましょう。削減できるコストには、次のものがあります。
請求書発行システムは、請求書以外にも領収書や納品書、発注書などのさまざまな書類を作成できます。これらの帳票をすべてペーパーレス化した場合に削減できるコストを書き出してみましょう。
請求書などの帳票書類を発行する業務が簡便化することで、人件費を削減できることもあります。また、領収書に添付する印紙代の削減も大きな節約です。
請求書発行システムの導入費用が高額でも、ある程度の期間使い続ければ、十分に回収できるのではないでしょうか。
自社が発行する請求書であっても、取引先の希望を反映しなくてはいけません。そのため、紙の請求書や郵送による受取を好む取引先に関しては、ペーパーレス化を進めることは難しいでしょう。
また、紙や郵送を好む取引先が少しなら良いのですが、大半の取引先が紙での郵送を希望する場合は、請求書発行システムの導入費用の回収が難しくなります。ペーパーレス化を進める前に取引先の意見を聞き、導入費用の回収が可能と思われるときのみ請求書発行システムを導入するのも1つの方法です。
請求書のペーパーレス化は、次の手順で進めていきます。
それぞれの過程で実施することや考慮することについて紹介します。
まずは社内体制の構築です。業務手順が変わることもあるため、誰がどの業務をどの順番で行うのか、担当者に周知しておきましょう。
また、ペーパーレス化により取引先とトラブルが生じる可能性があります。例えば、次のような事柄が起こり、取引先から早急な対応を求められることもあるでしょう。
ペーパーレス化を実施する前に、想定される質問をリストアップし、対応方法をマニュアル化しておくことをおすすめします。担当者によって対応が異なると、取引先に不信感を抱かせることになりかねません。
また、電子データの扱い方については、スクリーンショット画像なども入れた取引先用のマニュアルを作成し、事前に配布しておくこともおすすめです。スムーズにペーパーレス化を進めるためにも、取引先に混乱を与えないことを第一義としましょう。
請求書をペーパーレス化する前に、取引先から了承を得る必要があります。ペーパーレス化によって何が変わるか説明する案内メールを作成し、了承可否の回答をして欲しい旨を伝えましょう。
紙以外の領収書を受け取れないと回答する取引先が多い場合には、請求書発行システムの導入を断念することにもなりかねません。請求書のペーパーレス化を検討するときは、できるだけ早い段階で取引先から了承を得るようにしましょう。
ペーパーレス化を案内するメールには、電子データとして受け取ることのメリットも含めることがおすすめです。例えば、「書類保管のスペースが不要になる」「帳票を検索で探せるようになる」など、取引先にとって好ましいと思えるポイントをまとめて紹介しましょう。
取引先から了承を得た後は、請求書発行システムを導入・運用していきます。また、できれば過去の帳票もデータ化して管理しましょう。すべて同じ法則でファイル名をつけると、検索しやすくなります。
なお、請求書のペーパーレス化は、段階的に行うほうが取引先に混乱を与えにくいでしょう。例えば、当面の間は、電子データと紙の両方で請求書を発行するなどの方法も検討できます。
請求書のペーパーレス化を進める際は、必ずしも請求書発行システムを導入しなくてはいけないわけではありません。例えば、請求代行サービスを利用すれば、請求書の電子データの作成や送付もすべて任せることができるため、システム導入なしにペーパーレス化を実現できます。
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