民法の一部が 124 年ぶりに改訂され、2020 年 4 月 1 日より施行されています。
改正されたのは債権について定められた部分で、その改正の一部によって、売り手となる中小企業や個人事業主にとって決済方法の選択肢が広がるなど、メリットが多くなる内容 になりました。本記事では、このような債権法改正による売り手側に生じるメリットについて詳しくまとめています。まずは、債権に関する民法についておさらいしてみましょう。
債権法とは、私人間(国家や公共的な地位を持たない一般人のあいだ)の権利義務を定める民法のうち、私人間で成立する債権の内容や契約関係の定めに関する部分をいいます。債権とは支払いを請求できる権利、売掛金のことです。
民法では、従来から民法 466 条により、売り手(受注者)に属する権利を「譲渡できる」として、売り手の意思で債権を第三者へ譲渡することが認められています。一方で、別項にて「債権の譲渡の有効性を主張できるか否か」について記載しています。そのため、買い手(発注者)が第三者となる譲受人への債権譲渡を禁止する意思表示をした場合、債権には「債権譲渡禁止特約」をつけることができるのです。特約の付与については、民法改正後でも変更はありません。
2020 年 4 月 1 日から改正された民法では、上述の「債権譲渡禁止特約」の効力が変更になりました。
債権の譲渡は、売り手の権利として民法第466条で認められているため、売り手は自らの意思で、支払サイト中に債権を第三者(譲受人)へ譲渡し、早めに資金を得ようと試みます。
一方、買い手は、さまざまなデメリット(※)があることから債権の譲渡を拒みたいと考えます。
そこで買い手は債権譲渡を禁止する「債権譲渡禁止特約」をつけて、譲渡を無効にすることができました。
こうして、債権に債権譲渡禁止特約がつくと、売り手は権利を有しているにもかかわらず、債権を譲渡できなくなっていたのです。
※債権が譲渡されると支払先の変更が必要になったり、譲受先の与信審査に時間を要したり、支払先がわからなくなるなどの混乱をきたすおそれがある。
債権譲渡禁止特約は大企業を中心として契約に付与されることが多く見られ、売り手には次のようなデメリットが生じていました。
2020年 4 月に施行された新しい債権法では、債権譲渡禁止特約の効力について大きな変更がありました。
その代表的なものが、「買い手が債権の譲渡を禁止したときでも、債権譲渡の効力を妨げられない」という点です。
これにより、債権譲渡禁止特約のついた債権が第三者へ譲渡されても、買い手は譲渡の無効を主張できなくなりました。
また、将来的に発生することが見込まれる取引を指す「将来債権」の譲渡について、改正前まで規定がありませんでしたが、改正後、初めて譲渡の有効性が明文化されたことも大きな変更点といえます。
債権譲渡禁止特約の効力についての変更と、将来債権譲渡の明文化により、売り手には次のようなメリットが見込めます。
債権法改正で、具体的に何ができるようになるのでしょうか ? 債権譲渡の活用法は次のとおりです。
買い手による債権譲渡無効化のおそれがなくなったことで債権譲渡禁止特約のついた債権も譲渡しやすくなりました。債権の譲渡により、支払日を待つことなく債権を現金化できるようになり、資金繰りの苦労が軽減されます。
支払サイトが長いといった理由で資金繰りに困窮したとき、これまでは融資でまかな うケースも少なくありませんでした。債権を早期に現金化できるようになることで、融資ではない資金調達が可能になります。
債権譲渡禁止特約によって依 頼しづらかった、決済代サー ビスを利用しやすくなりま す。請求業務にかけていたリソースをほかの業務にあてられる上、未回収リスク回避の効果が見込め、請求業務の時間短縮や効率化が図れます。
将来債権の譲渡の有効性が明文により認められたことで、将来債権の譲渡が資金調達手法として明確になりました。調達した資金をキャッシュフローの改善や設備投資にあてるなどして、経営の見直しも図れるようになります。
債権譲渡は買い手にとってデメリットが多く、手間が増えるため、できれば避けたいものです。そのため、債権譲渡を前提として、支払サイトの期間短縮などを提案することで、応じてくれる可能性が高まります。
買い手による無効化のおそれがなくなったことで、債権譲渡禁止特約のついた債権も譲渡しやすくなりました。それにより、支払日を待つことなく債権を現金化できるようになります。
債権譲渡行う際には、いくつか注意したいことがあります。実行前によく確認するようにしてください。
債権譲渡による早期の資金調達は、資金繰りに困窮しているイメージを持たれやすく、買い手との今後の関係性に影響することがあります。誠実な取引を心掛けるなど、日頃から信頼関係を築けるコミュニケーションを図っておきましょう。なお、債権譲渡禁止特約をつけない対応を求めるのもひとつの方法です。
債権譲渡の譲受人となる第三者は、単発の債権譲渡が可能なところや、請求書の発行から督促までまとめて継続的に行ってくれるところなど、さまざまな企業があります。まずは自社の希望を明確にし、譲受先のサービスが自社が希望する条件とマッチしているか確認しましょう。
債権譲渡には手数料がかかります。料金は譲受人となる企業によって異なるため、試算して手数料 を支払っても債権譲渡を行うメリットがあるかを確認しましょう。 また、買い手の倒産などで債務不履行となったときは対価の返金が必要なのかなど、譲受人が提示する条件も忘れずに確認してください。
債権譲渡の譲受を行う企業は登録制ではないため、消費者金融に交付される貸金業登録番号のような、合法性を立証する公的な証明がありません。そのため、反社会勢力などの悪徳業者がまぎれていることがあります。譲受人を選ぶときは、上場企業グループであるなど信頼性が高く、取引条件を明確に提示している企業から選定しましょう。
本記事では債権法改正による売り手側に生じるメリットや注意点をご紹介しました。債権法改正により、債権の流動性が高まり、資金繰りに関する選択肢が増えました。債権譲渡による資金調達や、請求・決済代行への請求業務のアウトソースなど、事業運営に直結する改正です。ぜひ新しい制度を知り、そして事業の成長のために活用してみてください。
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