取引先の与信調査をする際、「調査をしていることが知られたら、失礼にあたるのではないか」と心配になることもあるでしょう。しかし、与信調査は掛取引を始めるにあたって必要な調査であり、失礼にはあたりません。
ただし、基本的に、調査は相手に伝わらない適切な方法で行うようにしましょう。
本記事では、相手先に失礼にあたらず与信調査をする方法や、チェックするポイントなどを解説します。
与信調査とは、新しい取引先の財務状況を調査し、取引の可否や与信限度額を決定するための調査です。与信調査を行うことは、基本的に失礼にはあたりません。売掛金を回収できないリスクを避けるために必要な調査であり、掛取引を始めるにあたっては必ず行うことであるためです。
しかし、取引先と今後も長く良好な関係を維持するためには、できるだけ相手に配慮した調査を行う必要があります。
ここでは、そもそも与信調査とはどのような調査なのか、詳細を確認していきましょう。
与信調査とは、新しい取引相手と取引を始めるにあたり、財務状況や経営状況、信用力を確認するための調査です。取引先企業が信用できるかを調べることから、「信用調査」とも呼ばれます。
与信調査は、本格的な調査に入る前に、まず社内で内部調査を行います。それだけでは十分な情報が集まらないことも多く、直接企業を訪問したり、外部の信用調査会社に依頼することもあります。
与信調査は、代金の未回収リスクを回避するために行います。取引相手に十分な支払能力がない場合、代金を回収できず、自社の資金繰りが悪化するでしょう。最悪の場合、黒字倒産になる可能性もあります。
安定した経営を行うために、与信調査は欠かせません。
与信調査は、大きく内部調査と外部調査に分けられます。調査方法により、取引相手に配慮が必要になる度合いも変わります。
与信調査の方法について、詳しくみていきましょう。
内部調査とは、社内で行う調査です。経理や営業におけるデータをもとに、取引相手の状況を確認します。すでに取引をしたことがある取引先であれば、取引先の情報は社内にあり、取引実績や過去の商談内容の確認ができます。
営業では、取引相手と接触した際の印象や業界での噂などの情報を集め、信用状況のチェックができるでしょう。
内部調査は社内で完結するためコストがかからず、すぐに情報を得られる点がメリットです。取引相手に調査していることは伝わらないため、失礼にあたることはありません。
一方、調査できるのは、過去のデータや取引時の印象など限定的な情報にとどまります。社員の主観に影響される部分もあるでしょう。そのため、内部調査のみでは限界があるといえます。
外部調査は、取引先に直接接触して調査する方法と、取引先以外の第三者機関から情報を収集する方法があります。
取引先企業と接触する直接調査は、電話やメールなどを使ってアンケートや質問をするほか、訪問して対話する方法があげられます。企業を訪問する際は、職場の状況や従業員の様子も確認できるでしょう。
調査目的を明確に伝えることはなくても、訪問のタイミングなどから与信調査だということが伝わる可能性はあります。
第三者機関から情報を収集する方法は、次の方法があげられます。
官公庁調査は、法務局などの官公庁の公開情報を利用して調査する方法です。商業登記簿や不動産登記簿から、商号変更履歴・資本金の増減などを確認し、経営状況を判断します。
インターネットを活用する調査では、決算情報やIR情報、口コミ・評判などがわかるでしょう。コンプライアンス違反など、ネガティブな情報も確認できることがあります。
さらに、外部調査による情報が正しいかを裏付けるため、取引先とつながりがある企業や金融機関、近隣住民などから情報を収集する側面調査を行うこともあります。
信用調査会社による調査は、帝国データバンクや東京商工リサーチなど信用調査を専門とする会社へ依頼し、取得した情報から信用を分析する方法です。信用調査のプロが調査するため精度の高い情報を得ることができ、効率的な与信調査ができるでしょう。
ただし、調査会社が取引先企業を訪問する場合、タイミングによっては依頼元が自社であることが取引相手にわかる可能性があることは把握しておきましょう。
与信調査を行うことは、失礼にあたるわけではありません。取引先も自社に対して調査を行うことがあるでしょう。取引を行うために必要なことと心得ていて、協力してくれる場合もあります。
ただし、与信調査のやり方によっては、取引先に不快感を与えたり、信頼関係が悪化したりする可能性があります。
与信調査は必要であっても、良好な関係を築くためにはできるだけ相手に失礼にならないように行うことが大切です。
相手に失礼のない調査をするためには、次の3点がポイントです。
それぞれ、詳しく解説します。
相手に伝わらない方法で行えば、失礼にあたることはありません。相手に伝わらない方法には、内部調査、官公庁調査、インターネットによる検索などがあげられます。これらの方法で結論を出すことができれば、相手に伝わることはなく、失礼のない調査ができるでしょう。
これら以外の調査が必要な場合には、営業担当者が接触する際にさりげなく調査事項を聞き取るなど、できるだけ与信調査だとわからないように行うことが大切です。
与信調査を行っていることを、第三者に漏らすことは厳禁です。調査している相手のことや調査内容はもちろんのこと、調査を行っていること自体も外部に漏らすことは避けてください。
うっかり漏らした話はさまざまな人を介して伝わる可能性があり、調査していることを聞いた相手企業は快く思わないでしょう。コンプライアンスの意識に欠ける企業と思われてしまう可能性もあります。
調査会社に依頼する場合は、自社が調査していることが伝わらないよう、信頼できる会社に依頼することが大切です。
調査に実績のある会社であれば、相手に知られることなく調査してもらえるでしょう。
たとえば、公平中立的な調査をするため、調査依頼企業の情報は調査員に知らせない仕組みを用いている調査会社もあります。
与信調査が重要な理由は、未回収リスクの回避や黒字倒産・連鎖倒産を回避するためです。
詳しくみていきましょう。
与信調査を行うのは、代金の未回収リスクを防止するためです。企業間取引は掛取引で行われることが多く、代金を受け取る前に商品やサービスを取引先へ提供します。支払いを受けるまでの期間、相手に支払い猶予を与えることになります。
このような掛取引において十分な調査を行わなければ、支払い能力がない取引先と取引を行ってしまう可能性があり、支払期日までに代金を回収できないおそれがあるでしょう。
このようなリスクを回避するため、取引前に相手の信用状況を把握することが重要です。
与信調査を十分行わずに信用力のない相手と取引した場合、代金が回収できずに自社の資金繰りが悪化するおそれがあります。
手元資金が不足してキャッシュフローが悪化し、買掛金の支払いが遅延する可能性があるでしょう。支払い遅延は、自社の信用を失うことにもなりかねません。
また、代金を回収できないことは、黒字倒産のリスクにもつながります。黒字倒産とは、帳簿上では利益が出ているにもかかわらず、支払いに必要な資金が不足して倒産することです。
黒字倒産を防ぐためにも、取引に入る前の与信調査は欠かせません。
与信調査をせずに財務状況が悪化している企業と取引すると、連鎖倒産のリスクもあります。連鎖倒産とは、取引先が倒産することで、その影響を受けて自社も倒産することです。
売掛債権が未回収のまま取引先が倒産すれば回収の見通しが立たず、手元の資金が不足します。借入金などの返済ができなくなる可能性があるでしょう。そのため、最悪の場合は連鎖倒産してしまうことになります。
与信調査をすることで、そのような事態を回避します。
与信調査を行う際、チェックするポイントは次の3つです。
それぞれ、詳しい内容を解説します。
与信調査で確認するポイントは、資産・財務状況です。貸借対照表や損益計算書・キャッシュフロー計算書などの財務諸表から、売上高や利益の推移・保有資産など、数値による定量情報を確認します。
不動産登記簿も有益な情報です。保有不動産や、担保に入っているかの状況がわかります。
これらの資料からわかることは、次の点です。
財務状況の確認は、与信限度額を設定する際にも重要なポイントとなります。
数値からはわからない信用度のチェックも必要です。経営者の人柄や事業計画、従業員に対する処遇、組織風土、コンプライアンスへの取り組みも確認しましょう。
たとえば、架空取引や粉飾決算、リコール隠しなどの不正行為がある場合、発覚により企業は社会的信用を失います。それまでの業績が良い場合でも、信用を失うことで経営不振に陥り、代金を回収できないという事態になる可能性があります。
とはいえ、経営者の人柄や組織風土が健全であれば、金銭的にも問題がないとは限りません。あくまでも、総合的な判断が必要です。
反社チェックも不可欠です。取引先や社員に、反社会的勢力と関わりを持つ人物がいないかは必ず確認してください。
企業には、「暴力団排除条例」によって反社会的勢力との関わりをもたない努力義務が課せられています。反社チェックを怠って反社会的勢力と関わりのある企業と取引をした場合、勧告や公表、罰則などの措置を受けるおそれがあるでしょう。
相手が反社会的勢力と知らずに取引した場合でも、関わりがあったことがわかれば企業の信用は失われる可能性があります。取引先や顧客が離れ、経営難に陥る場合もあるでしょう。金融機関からの融資を停止されたり、上場企業の場合は上場廃止になったりする可能性もあります。
与信調査で問題がなければそれで終わりではなく、取引開始後の与信管理も重要です。与信管理を行わないと、取引先の経営状況の悪化に気づきにくくなります。
ここでは、取引開始後の与信管理について解説します。
取引先の信用力は、業績や財務状況の変化により与信調査後も変動します。そのため、取引開始後も与信管理を行い、定期的なチェックと見直しが必要です。
与信管理では、管理部門と営業部門が連携することも大切です。取引相手と接する営業担当からの情報は、取引先の現状を評価するために欠かせません。営業先で職場や従業員の様子から違和感を覚えた場合はすぐに情報を共有し、与信管理の判断に取り入れることがリスクの回避につながります。
特に、長く取引を続けている企業は無条件で信頼してしまうこともあるでしょう。取引の長さにかかわらず定期的に信用調査を行い、現状を把握していくことが与信管理に求められます。
取引開始後は、債権管理と与信限度額のチェックも必要です。債権管理とは、売掛金や貸付金を管理する業務を指します。
与信限度額とは、取引先ごとに設定する債権の上限であり、安全に取引するための目安となる金額です。与信限度額を設定することで、掛取引でも確実に代金を支払ってもらうことが期待できます。
与信管理では、期限内に支払いが行われているか、与信限度の期限切れはないかを確認し、支払遅延がある場合はすぐに調査を行うことが大切です。担保を取得するなど、状況によって適切な対策が求められます。
複数回にわたって入金遅延が発生している取引先は、与信限度額の見直しも必要になるでしょう。与信限度の期限が切れている取引先があれば調査を行い、適切に設定することでリスクを回避できます。
万が一取引先が倒産した場合は売掛金の全額回収が難しくなる可能性があるため、まずは保有している債権を明確にするためにリストを作成します。そのうえで、取引の停止や納入品の回収、代物弁済などの交渉を行い、担保権実行や売掛金と買掛金の相殺などを行っても回収できない場合は、法的手段を検討することになるでしょう。
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取引のリスクを回避するため、与信調査は重要です。調査をしても失礼にあたることはありませんが、今後の関係性を維持するためにも、できるだけ相手に伝わらない方法を考え、外部に依頼する場合には信用できる調査会社を選びましょう。
取引先の財務状況や信用力は日々変動するため、与信調査は取引前だけでなく、取引後も大切です。与信管理をしっかり行い、信用力に変化がある場合は、与信限度額の見直しや適切な対策を講じましょう。
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