売掛金の未回収リスクが発生する理由は、担当者のヒューマンエラーや経営状況の悪化、故意に支払われないなどが考えられます。貸し倒れリスクを頭の片隅に入れつつ、予防策を講じて期日通りに回収を行う対応が必要です。今回は未回収リスクの発生原因や売掛金を回収する方法について解説します。
日本の商慣行では、製品やサービスを提供した後に代金を受領する、掛け取引が多く行われています。支払いまでタイムラグが生じる分、取引先やスケジュールの管理が必要です。
しかし、なぜ取引先からの売掛金の入金が期日通りに行われないのでしょうか。考えられる理由は取引先のミス、支払い能力の低下、意図的な遅延などです。売掛金の未回収リスクが生じる原因について詳しく解説します。
支払い処理による対応漏れや誤記入などのヒューマンエラーが生じている可能性があります。近年はツールの導入が進みつつあるとはいえ、会計や経理では、人間のPC操作や目視によるチェックも行われています。
担当者が支払処理を忘れたり、別日と間違えたりする単純なミスが起こるリスクはゼロではありません。請求書の紛失や取り違えなどもあるでしょう。人間が行う以上、会計処理に熟達した人材でもミスを起こす可能性はあります。
期日に入金されない理由が取引先の単純なミスであれば、メールや電話で確認し即座に対応してもらえるでしょう。このようなミスを起こさないために、ふだんからダブルチェックや企業内外の連携が大切です。
経営環境は常に変動するため、今まで安定して利益を確保してきた企業が、一転して経営危機に直面するケースもあります。資金繰りの悪化により支払いに回す資金が不足すれば、売掛金の弁済が予定通りに行われず、未回収リスクが高くなることもあるでしょう。
何度も支払いをお願いしているのに返答がない、または対応しない場合、生じた債務を負担できないほど危機的な経営状態に陥っているかもしれません。
そのまま放置すると債権の未回収リスクが高まり、自社の経営にも支障を来たす恐れがあります。取引先からの売掛金の入金を仕入債務や従業員の給料に充てている場合、直近の債務を予定通りに支払えない可能性が生じるためです。
ミスではなく支払能力にも問題がない場合、取引先が故意に支払に応じていない可能性があります。認識していながらあえて支払に応じていない場合は、連絡を入れても意味がなく厄介な状況です。
意図的な未払いを避けるためには、与信管理を徹底し、信用力に乏しい企業との取引には応じないことが第一です。取引を開始する前に、企業の基本情報や実績、企業規模などできるだけ多くの情報を入手しましょう。
提供する商品・サービスのユーザー評価や財務諸表をはじめ、定量・定性データの両方をバランス良く取得することが大切です。信用力が低い企業は意図的な売掛金支払の遅延以外にも、破産や倒産のリスクも伴うため要注意です。
入金を見込んでいた売掛金の支払いが遅れれば、自社の経営に多大な影響が生じます。たとえば資金繰りの悪化や利益の減少、金融機関からの評価の低下などです。それぞれ具体的にどのような影響が生じるか詳しく解説します。
売掛金が予定通りに入金されないと、資金繰りの悪化を招きます。資金繰りとは、端的にいえば企業に出入りするキャッシュの動きを表す言葉です。銀行の預金や株式などは資産には計上できても、即現金化が難しく、給料の支払いや他の取引先への債務の弁済などには使いにくいものです。
企業活動を円滑に進めるには十分なキャッシュが蓄積される必要があり、資金繰りが悪化すれば、危機的な経営状況に立たされる恐れもあります。売上や利益が出ているにもかかわらず、キャッシュが不足し直近の債務の弁済ができずに破産する、黒字倒産が代表例です。
掛け取引が中心の企業間取引では、売掛金がキャッシュの大半を占める企業も存在します。売掛金が予定通りに入金される前提で支払計画を組んでいる場合、貸し倒れが起こると計画が頓挫します。倒産のような事態とまでいかずとも、資金繰りの悪化によって取引先への支払が滞れば、信用が低下し会社の評判にキズがつくかもしれません。
掛け売りでは、製品やサービスを販売した時点ではなく、入金があった時点ではじめて利益が確定します。会計処理上、経営破綻または実質的な経営破綻などにより未回収リスクが高い売掛金は「売掛金」として勘定せず、「破産更生債権」勘定に分けて記帳する場合もあります。
売掛金を順調に回収できないと、督促や事務作業が発生します。本来であれば不要な人件費が伴う分、利益の水準が押し下げられるでしょう。売掛金回収のために本来取り組むべきコア業務の進捗に影響が出れば、企業全体での生産性低下まで引き起こしかねません。
企業が得た利益は次なる事業展開の資金にも活用でき、反対に利益が出なければ活動の幅が狭まるでしょう。銀行からの融資は利息が伴い、審査も厳しい傾向があるため、企業規模や実績しだいでは利用できない恐れもあります。売掛金の未回収リスクは利益に計上できない売上を増やし、回収に伴う業務の負担も増大させてしまいます。
売掛金の未回収リスクが高い企業は、金融機関からの評価が低下する傾向があります。銀行や信用金庫は融資を申し込んだ企業の審査を実施します。金融機関は貸付金の返済能力を見極めるため、企業の経営状態や財務状況をさまざまな視点でチェックするのです。
審査基準は銀行ごとに異なり、公開されてもいませんが、売掛金の回収状況が含まれる可能性は高いでしょう。売掛金の入金遅れや貸し倒れが頻発すると、金融機関から資金管理がルーズだと判断されてしまうかもしれません。
自社の債権は予定通りに弁済していても、取引先からの回収力が低いと、審査が不利になり働きかねません。売掛金が多いこと自体はむしろビジネスが順調な証です。しかし回収できない金額が多い、もしくは回収不能の割合が高いと金融機関に回収能力が疑われる場合もあります。
結果的に融資が認められたとしても、金利が高かったり上限額が低めに設定されたりと条件面で不利益を被りかねません。
売掛金の未回収リスクが判明した場合、まず取引先に遅延の事実と早急な支払いを望むことを伝えます。効果がないときに試したい方法は次のとおりです。
各方法の詳細について解説します。
連絡をしたのにもかかわらず先方が対応しない場合、ミスではなく故意の入金遅れや、支払う余裕がない状況が生じている可能性が高いです。督促を行い、支払ってほしい旨を記載した文書を送付します。
督促状は法律で定められた書類ではなく、いくら強い口調で支払いを促しても、強制力や法的な拘束力は認められません。有効なのは日本郵便が文書の発行元や送付先、日付を証明する内容証明郵便の活用です。
普通郵便では、相手方から督促状は届いていないと言われれば、文書を送ったという証明ができません。内容証明郵便は文書の送達を公的機関が証明するため、裁判に発展したときの有効な書類としても活用できます。また、内容証明郵便の送付を受けた側は取引先が本気で回収に乗り出したと気づく可能性が高く、弁済を促す一定の効果があるといえます。
内容証明郵便を送付しても音沙汰がなければ、裁判所を通じた法的な手続きに移行します。いきなり訴訟を提起せずに、前段階として支払い督促の申し立てを行うのがおすすめです。
債権者が簡易裁判所に対して申し立てを行うことで、債務者に支払督促が送達されます。送達後、何もしないまま二週間が経過した場合、裁判所は「仮執行宣言付支払督促」を送付します。さらに二週間が経過しても支払いに応じず、異議申し立ても行わないとき、債権者は強制執行を行う権利を得ることが可能です。
通常、財産を差し押さえるには裁判上の確定判決や調停調書、執行認諾文言付公正証書などが必要です。しかし支払督促もそれらの書類の一種であるため、相手方の交渉や同意を得ずとも、強制執行に踏み切れる点に特徴があります。
裁判を始めると判決までに数カ月要するのも珍しくありませんが、支払督促であればより短い時間で済むのも利点です。
今までに紹介した方法で売掛金の回収が実現できなければ、最終手段として訴訟手続きを検討する必要があります。未回収の売掛金が60万円以下の場合は、簡易裁判所を通じて少額訴訟の提起が可能です。
少額訴訟は原則1回の審理で判決が出るため、何度も出廷する必要がありません。ただし、一回の審議で双方の主張が合致しない場合は通常訴訟に移行します。
少額訴訟で決着がつかないときは通常訴訟を起こします。申し立て先は売掛金の金額が140万円以下のときは簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所です。少額訴訟は依頼人だけでも請求できますが、通常訴訟では弁護士に依頼することもあります。
売掛金の未回収リスクは低いに越したことはありません。期日までに入金が行われないときや貸し倒れが頻出している企業は、対策を施しましょう。売掛金の未回収リスクの軽減に効果的な対策を紹介します。
与信管理の頻度や人員の数を増加し、チェック体制を強化するのが一つの方法です。与信管理とは、取引先の信用力をチェックして、経営状態や過去の取引、財務状況などから貸し倒れのリスクがないか見極める方法です。与信管理は契約時に行うだけでは足りず、定期的に格付けや限度額を見直す必要があります。
企業を取り巻く状況は移り変わり、何が起こるか分かりません。今まで売掛金を期日までに支払い続けてきた取引先も、資金繰りが悪化して返済が滞る可能性もあります。
今まで以上に与信管理の体制を強化し、見直しの頻度を年1回から半年に1回に増やしたり、与信調査の確認項目を増やしたりする取り組みが求められるでしょう。
交渉の余地があるなら、支払期日を前倒しできないか取引先に掛け合うのもおすすめの方法です。
下請代金支払遅延等防止法では、製品やサービスの受領後60日以内に代金を支払うことが定められています。売掛金債権を有する企業にとって、締め日から支払日までは短いほうが資金繰りの観点では有利です。反対に支払期日までが長いと、仕入債務や給料の支払いなどに追われ、キャッシュフローが悪化する可能性があります。
会計処理の負担を考えれば、請求書の締め日や支払日は固定してまとめて処理するのが基本です。しかし、既存の取引先には現状維持で、はじめて取引する相手や取引開始から間もない企業には早期の期日を指定するという方法も検討できるでしょう。
請求金額が確定したら早急に請求書を送付し、取引先へ迅速に通知しましょう。実際の業務では相手方が納品物をチェックし、自社に請求金額を伝えるような運用体制を敷く場合もあるかもしれません。いずれにせよ、請求内容が決まったら、迅速に請求書を送付するのが大切です。
なぜなら、迅速な通知によって、入金対応の漏れや期日の勘違いなどのヒューマンエラーの防止につながるからです。反対に請求書の送付が遅れると、売上の管理が甘く信用できない会社だと思われるリスクが生じます。
金銭にかかわることは慎重に行いたいと考える経営者もいるかもしれませんが、仕事の成果に応じた報酬を受け取るのは立派な権利です。万一入金期日までに支払いが確認できないときも同様、判明した段階で早急に取引先へ連絡を入れましょう。
資金繰り表とは、特定の項目ごと現金の入金・出金を記録し、キャッシュの出入りや過不足の状況を表した表のことです。
資金繰りでは現金の収支が重要です。手元のキャッシュが不足すれば、数字上は黒字なのに取引先への債務を支払う資金が足りなくなることも起こり得るでしょう。売掛金の入金日と買掛金の支払日が離れていると、資金繰りの悪化につながります。
キャッシュの流れが分かる資金繰り表を作成することで、いつまでに入金があれば支払いに支障を来たさないかを把握できます。売掛金や受取手形の期日は早いほうが好ましく、給与や仕入債務の弁済は遅いほうが会計上は有利です。
資金繰り表は全体的な収支以外にも、営業収益や財務収益に項目を細分化して運用するとより効果的です。うまく使えば売掛金の未回収リスクを考慮して、他の資金調達を考えるというように、計画的で賢い資金計画を立案できるでしょう。
自社の施策だけでは未回収リスクを減らせるか不安だと感じるなら、売掛保証の活用がおすすめです。売掛保証は業績悪化や倒産などで対象の債権が貸し倒れになった状況に備えて保証会社が間に入り、契約で定めた金額を支払うものです。
売掛保証は利用者と保証会社間での契約となり、原則取引先(債務者)には通知されません。取引先に経営状態を疑われず、安全に貸し倒れリスクを低減できるのは売掛保証の利点です。ただし利用時には債務者や債権が審査に通る必要があります。また、保証会社に手数料を支払うことにも注意しましょう。
無事契約に至れば、予期せぬ倒産で売掛金が回収不能になっても、一定の金額を受け取れます。連鎖倒産のリスクも抑えられるため、審査によって確実に利用できる方法ではないながらも、利用価値はあるサービスだといえます。
期日前に売掛債権を譲渡して、早期に現金を得られるファクタリングの利用も一つの方法です。利用の際はファクタリング会社に手数料を支払う必要がありますが、審査に通れば迅速にキャッシュを得られるスピード感が魅力です。
サービスによっては即日の資金調達も可能であるため、喫緊の資金需要で頭を抱えている企業におすすめです。取引先の倒産などで売掛金を回収できなくなっても、ファクタリング会社が入金を保証する安心のサービスです。
契約形態は大きく2者間ファクタリングと3者間ファクタリングに分かれ、後者は取引先(債務者)に債権譲渡の通知が行われます。取引先に自社の経営状態を疑われるリスクがある反面、2者間ファクタリングと比べて手数料が割安な場合があります。どちらも一長一短はあるため、自社が重視したい事柄を見極め、自社に合った契約形態を選択しましょう。
売掛金の回収が滞ると、督促などの業務が発生します。相手の対応しだいでは裁判に発展する場合もあるため、未回収リスクを減らす予防策の実行が大切です。
与信審査だけでは、貸し倒れのリスクをゼロにはできません。たとえば、期日前に売掛債権を譲渡してキャッシュを確保するファクタリングの利用もおすすめです。未回収リスクの対策はいくつかあるため、自社に適した方法を選択して、資金繰りの悪化に備えましょう。
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