与信管理は取引先が信用に足る企業か判断し、売掛金を確実に回収するために重要な行為です。まず情報収集に時間をかけ、リサーチで得た情報をもとに与信枠を定めます。
与信限度額の基準となるのは、自社売上債権・取引先仕入債務・取引先純資産などです。今回は与信管理の具体的な方法や手順、注意点をわかりやすく解説します。
与信管理とは一言で言えば、売掛金が回収不能になるリスクを抑えるために必要な行為です。企業間取引において、納品と同時に代金の支払いが行われるなら与信を考えずに済みますが、納入から代金の回収までにタイムラグがある場合は、取引先の信用度が重要です。
契約前に与信調査を実施して取引の可否を判断したり、取引先ごとに与信限度額を設定したりする行為が挙げられます。
与信審査では、取引先の業績が悪化していないか、倒産の前兆がないかなどを注意深く観察しなければなりません。
企業間取引や個人事業主との取引では、与信管理が非常に重要です。なぜなら売掛金の回収の可能性を左右するからです。与信管理を適切に行わないと売掛債権の不良債権化を招き、利益の確保に結びつきません。それどころか資金繰りの悪化を招きます。
未回収の債権があると、信用の低下にもつながりかねません。それが頻発すれば、最悪の場合、倒産に至ります。ここでは与信管理が重要な理由について詳しく解説します。
万が一、売掛金を回収できず不良債権化した場合、帳簿上は貸し倒れ損失に計上されます。せっかく取引したのに利益につながらないばかりか、企業経営を逼迫します。
貸し倒れ損失の発生を防ぎ、利益を確保するためには適切な与信管理が必要です。売掛債権の金額が大きい場合、回収不能時のリスクが高まるので特に注意しましょう。
貸し倒れを引き起こす取引先は経営状態が芳しくないので、倒産の可能性も十分あります。売掛金の回収に失敗した企業が後を追うように倒産する連鎖倒産にもつながりかねません。
取引先との共倒れを防ぐためには、適切な与信管理によって利益を確保する必要があります。
取引先からの入金の遅延や未回収が起きると、自社の資金繰りが狂い、仕入費用や経費の支払いができなくなる恐れもあります。
最悪売上が計上されているにもかかわらず、資金が底をつき経営が頓挫する黒字倒産を引き起こしかねません。
回収した売掛金を次の仕入の支払いに充填する公算が外れ、計画が失敗に終わる可能性があります。
売掛金の管理がままならない会社だとみなされ、取引先からの信用が落ちる可能性があります。信用がなくなると、自社の与信限度額が減り、金融機関からの借入額や仕入れ先の売掛金限度額などが減ることもあります。
自社の悪評が業界に広まった場合、取引先が減少して、売上が減ってしまう事態にもつながりかねません。取引先からの信頼を得るためにも、日頃からこまめな与信管理が必要です。
与信管理は以下の流れで進みます。
それぞれの工程で発生する作業や、注意点について解説します。
取引を開始する前に、その取引先が信用に足る企業なのか情報を集めましょう。収集する情報の例を以下に示します。
取引先が上場企業なら一般公開された情報を活用できますが、非上場企業の場合は入手できる情報が限られていることがあります。ホームぺージ以外にも口コミや登記簿などの有料情報も駆使した精度の高いリサーチが求められます。
営業担当者が商談の場で得た代表者の印象や、社内の雰囲気なども重要な情報です。必要に応じて、東京商工リサーチや帝国バンクなどの調査会社を活用するのもおすすめです。
集めた情報をベースに、取引先の信用力を定量・定性的に評価します。定量データの分析では財務諸表などの数字を活用して、スコアリングを行うのが一般的です。
さらに組織風土や経営陣の手腕などの定性情報から、数値に現れないリスクの顕在化を試みます。取引先と直接的な接点がある営業担当の意見を取り入れるのが重要ですが、親密度やイメージなどの先入観が評価に影響を与えないように注意しましょう。
流通について分析する商流分析も有効な方法です。仕入先や最終的な需要、支払条件、納品の場所など取引の全体像や詳細を把握し、トラブルを招く可能性がないか吟味します。
取引先ごとに与信枠(予算限度額)を決定し、取引を開始します。前段の信用調査や、過去や現在の取引額を考慮して、現実的な限度額を設定します。
月々の平均取引額が200万円で、債権回収金額が2ヵ月のケースを考えてみましょう。過去に未払いが発生しておらず、支払能力にも問題がないのであれば、与信枠を500万円に設定することが検討できるでしょう。
交渉は契約した限度額をベースに行います。支払い前に追加取引が発生した場合、予算限度額を超過してしまわないか注意が必要です。金額だけでなく、売掛金の確実な回収もマストです。
期日通りに請求書を作成し、スケジュールに支払が間に合わないのであれば、催促を行って確実な回収を心がけてください。
取引開始後も定期的に情報を収集し、与信枠の見直しを行う必要があります。与信限度額には期限を定め、最低でも年に一度は見直しの機会を設けましょう。
大口取引先や前回の審査で危険な兆候が見られた取引先は年二回にする、というように柔軟な運用体制の構築が求められます。
見直しは直前の決算を反映できるよう、決算期と近い時期に行うことを推奨します。取引先や取引に異変があった場合は、更新時期にかかわらず都度、与信調査を実施することが理想的です。
たとえば今までスムーズに請求書を発行していた会社が突然支払い遅延を起こしたり、資金繰りが悪化したとの情報を掴んだりした場合が該当します。
与信限度額を決める際に用いる主な基準は、自社売上債権・取引先仕入債務・取引先純資産です。どのものさしを採り入れるべきかは経営状態によって異なります。それぞれの基準が何を示しているか、導入すべき企業の特徴も含めて解説します。
自社の売掛債権に一定の率を乗じて算出した金額を与信限度額の基準にする方法です。計算式は「自社売上債権×一定割合×格付けウェイト」です。
一定割合とは、債権が現金化に失敗した場合でも耐えられる上限を示します。各取引先の信用度に応じて定める格付けウェイトも、評価が高い取引先には高く、低い取引先には低く設定するなど、与信限度額の設定に活用できます。
自社売上債権は取引が活発で、多くの売上債権を保有している会社の与信基準として適切です。一方で、少数の取引先に依存する企業や、季節や年度によって売上に波がある企業には適していません。
仕入債務に一定割合を乗じ、与信限度額の基準とする方法です。計算式は「取引先仕入債務×一定割合×格付けウェイト」です。一見債務が多いと経営状態が芳しくないと思いがちですが、裏を返せば支払い能力の高さを意味します。
取引先の財務情報を取得できない場合、推定値に頼らざるを得ないため、信頼性を担保しにくいのが難点です。
取引先の純資産に一定割合を乗じて、与信限度額の基準とする方法です。計算式は「取引先純資産×一定割合×格付けウェイト」です。
純資産が潤沢であれば倒産リスクは低いと考えられるので、基準として活用できます。仮に取引先が倒産してしまっても、配当金を期待できるのもメリットです。
与信管理のポイントや注意点は以下の3つです。
適切な与信調査のために何に注意すべきか具体的に解説します。
与信管理を担う部門と、与信対象となる取引先と直接つながる営業部が情報を共有することが重要です。
営業担当は取引先の社内の雰囲気や環境を知っている立場なので、定性情報の取得源として役立ちます。適切な与信管理には、現場との密な連携が不可欠です。
なかには与信管理の効率的な推進のために営業部に与信管理部門を設置する企業もあります。
取引先ごとに売掛債権の与信限度額を変えることで、損失金額の抑制につながり、リスクを軽減できることがあります。リサーチで取得した情報をもとに取引先をランク付けする作業が重要です。
競合他社や同種規模の他企業と比較して、どのような特徴を有しているか、優劣はどうかなどを吟味します。債権や債務、純資産の金額以外にも、手形期間や売掛期間も与信限度額の変動要因になり得るでしょう。
売掛金を回収できるまでの期間を乗じて、与信限度額の設定基準にする考え方もあります。
ただし、取引可能金額をそのまま与信限度額に当てはめるのは危険です。売掛金が未回収に終わっても経営に支障を来たさぬよう、ゆとりを設けましょう。
与信調査にかかるコストについて、どれくらいの費用をかけるべきあらかじめ想定し、自社の状況にあわせた調査方法で調査を行うのも重要です。
与信調査を企業に依頼した場合、1社当たり1~5万円程度の費用が発生します。取引先が多いと企業経営を逼迫する可能性もあります。
与信調査は売掛金を確実に回収し、利益や売上を確保して継続的な成長を目指すための取り組みです。重要な行為ですが、コストをかけ過ぎるのも好ましくありません。
与信管理とは、経営が安定していて倒産のリスクが低い企業は信用を大きくし、逆に経営破綻を迎える可能性がある企業の信用を小さくする行為です。
起業が継続的に利益や売上を伸ばすためには、売掛債権の回収や与信限度額の設定が重要です。
与信調査にはある程度のノウハウが用いられるので、ゼロから始めようとするとなかなか前に進みません。
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