簡易課税制度とは事業区分により定められたみなし仕入率を適用して、仕入控除税額を計算する制度のことです。実際にどのように計算するのか、制度を利用するメリットや注意点について見ていきましょう。また、制度利用の手続きや一般課税に変更する方法についても解説します。
消費税を申告するときには、売上にかかった消費税と仕入れにかかった消費税の差額を納税する、仕入税額控除の仕組みを用いることが一般的です。しかし、軽減税率が適用された仕入れと通常税率の仕入れを分けて計算する必要があり、手間がかかってしまいます。
簡易課税制度とは、仕入控除税額の計算をすべての取引をまとめて行う仕組みです。売上げに係る消費税額に、事業の種類の区分(事業区分)に応じて定められた一定の割合(みなし仕入率)を乗じて算出した金額を仕入れに係る消費税額として、売上げに係る消費税額から控除するだけで仕入控除税額を算出できるため、経理担当者の負担を軽減できます。消費税の計算に必要な書類も少なくなるので、書類管理の負担も軽減できるでしょう。
簡易課税制度では、事業区分によって消費税額にかける一定の割合(みなし仕入率)が異なります。事業区分とそのみなし仕入率は以下の6つです。
次の条件を満たしているときは、簡易課税制度を用いて仕入控除税額除の計算を行うことが可能です。
なお、基準期間は、個人事業主の場合は前々年、法人は前々事業年度となります。基準期間の課税売上高が5,000万円を超えている場合は、通常通り税率で区分けして仕入税額控除を算出し、消費税の計算をしましょう。
簡易課税制度の適用を受けるときは、消費税簡易課税制度選択届出書を提出しなくてはいけません。また、すでに簡易課税制度の適用を受けている事業者が、簡易課税制度の利用を止めたいときには、消費税簡易課税制度選択不適用届出書の提出が必要です。
簡易課税制度の適用・不適用の手続きは、いずれも課税期間が始まる前日までに完了することが求められます。いずれも納税地の税務署で手続きを行います。
ただし、一度簡易課税制度の適用を受けると、少なくとも2年間は継続しないと不適用届出書を提出することはできません。簡易課税制度のほうがメリットが多いのか調べてから、簡易課税制度の適用を申請するようにしましょう。
基準期間の簡易課税制度が5,000万円以下であっても、必ずしも簡易課税制度を導入しなくてはいけないわけではありません。導入するメリットを紹介するので、メリットが得られると判断できるときは利用を検討してみましょう。
それぞれのメリットについて解説します。
簡易課税制度を導入しない場合、仕入れにかかった消費税を適用税率ごとに分けて仕入控除税額を計算しなくてはいけません。しかし、簡易課税制度を導入すると、売上げに係る消費税額に、みなし仕入率を乗じて算出した金額を仕入れに係る消費税額として、売上げに係る消費税額から差し引くだけで仕入控除税額を算出できます。
簡易課税制度では、2つ以上の事業区分にまたがって事業をしている場合は、事業区分ごとにみなし仕入率をかけて仕入税額控除を算出しなくてはいけませんが、事業区分が1つの事業者であれば取引の内容ごとに事業区分を分ける必要がないため、簡易課税制度を利用することでより簡単に仕入税額控除を求められます。
簡易課税制度では、実際にどの程度の消費税が発生したかに関わらず、事業区分に応じてみなし仕入率をかけて仕入控除税額を算出します。取引の内容によっては実際に発生した消費税よりも少なく算出される可能性があり、消費税の節税につながることがあるでしょう。
通常の方法と簡易課税制度による方法と両方で消費税額を求め、比較して初めて節税が可能かどうか分かります。消費税の節税を目指すのであれば、手間はかかりますが一度は計算して比較しておくことが必要です。
簡易課税制度は、すべての事業者においてメリットとなるわけではありません。次の点に注意をし、簡易課税制度を導入するかどうか決めましょう。
それぞれの注意点について解説します。
簡易課税制度は通常の消費税計算の方法と比べると、手間がかからず簡便に仕入税額控除を算出できます。
しかし、事業区分が複数にわたる事業者や、そもそも取引件数が少ない事業者であれば、簡易課税制度の導入により消費税計算にかかる手間が増える可能性があります。
設備投資などの支出が多い事業期間であれば、支払う消費税額が増えるため、納税する消費税額は減ることが一般的です。
しかし、簡易課税制度を導入している場合は、支出によって支払った消費税額が仕入税額控除に反映されないため、算出される消費税額が実際よりも増えることになってしまいます。その他にも、取引の内容によっては、実際に発生した消費税額よりも簡易課税制度によって求める消費税額が多いこともあるので注意が必要です。
簡易課税制度を選ぶと2年間は変更できません。そのため、設備投資額が多かった事業期間だけ通常の方法で計算するといったことは不可能です。
簡易課税制度を導入した事業期間や翌事業期間に設備投資が多くなることもあるため、導入するタイミングは適切に見極める必要があります。
計算方式に関わらず、納税する消費税額は以下の計算式によって求めます。
しかし、通常の計算方式と簡易課税方式では、仕入税額控除の求め方が異なる点に注意が必要です。いくつかのパターンに分けて、簡易課税制度による仕入税額控除の計算方法を紹介します。
事業区分が1つのみの場合は、以下の計算式で仕入税額控除します。
例えば、課税売上額が500万円、そのうち、軽減税率が適用される課税売上額が200万円の飲食店業について計算してみましょう。飲食店業は第4種事業に分類されるため、みなし仕入率は60%です。
事業区分が複数のときも計算方法は同じです。ただし、事業区分ごとに仕入控除税額を求める必要があります。
例えば、ネイルサロンを経営している場合について考えてみましょう。施術(第5種事業、みなし仕入率50%)による課税売上額が500万円、物販(第2種事業、みなし仕入率80%)による課税売上高が200万円とします。軽減税率が適用された売上はなかったとすると、消費税額の計算は以下のとおりです。
複数の事業区分にあたる事業を営んでいる場合は、事業ごとの課税売上高の割合によってはさらに簡便に仕入税額控除を計算することが可能です。複数の事業のうち1事業の課税売上高が75%以上を占める場合、その事業区分のみなし仕入率で全体の仕入税額控除を求められます。
例えば、ネイルサロンで施術による課税売上高が400万円、物販の課税売上高が100万円としましょう。施術による売上高は全体の80%を占めるため、仕入税額控除はまとめて50%のみなし仕入率で計算できます。
ただしこの方法では売上の75%以上を占める事業に適用されるみなし仕入率が、他の事業に適用されるみなし仕入率よりも低いときは、仕入控除税額が少なくなり、納税する消費税額が増えてしまう点に注意が必要です。実際に先程のケースも、事業ごとに事業区分を分けて計算するほうが納税する消費税額は少なくなります。
3種類以上の複数の事業を営み、そのうち2種類の事業の合計課税売上高が75%以上を占める場合も、簡便な方法を利用することができます。その2種類の事業のうち、適用されるみなし仕入率が高いほうの売上高にはそのみなし仕入率を適用し、その他の事業全体については、2種類の事業のうち、適用されるみなし仕入率が低いほうのみなし仕入率を適用できます。
例えば、事業A(第2種事業、みなし仕入率80%)の課税売上高が600万円、事業B(第4種事業、みなし仕入率60%)が300万円、事業C(第5種事業、みなし仕入率50%)が100万円としましょう。事業Aの仕入控除税額についてはそのまま80%のみなし仕入率を適用し、事業BとCは合算した課税売上高に60%のみなし仕入率を適用できます。
簡易課税制度を利用することで節税できることもありますが、簡易とはいいつつも決して手間がかからない計算方法ではありません。特に事業区分が複数にまたがるときは事業を区分けする手間が増えることになります。
インボイス制度施行に備えて簡易課税制度を利用するべきか検討しましょう。
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