与信限度額は、取引先ごとに設定する取引額の上限のことです。掛取引で未回収となるリスクを回避するために設定します。与信限度額の設定にはいくつかの基準があり、自社に合う方法を選んで適切な限度額を設定することが大切です。
本記事では、与信限度額について詳しく解説します。
与信限度額とは、取引先ごとに定めた総債権額の上限のことです。上限を超えた取引をしないことで、代金を回収できないなどのリスクを回避できます。
与信限度額を理解するために、まずは与信とは何かを確認しておきましょう。
与信とは、取引相手に信用を供与することです。
企業間取引では複数の取引が継続的に発生するため、その都度現金でやり取りするのは効率的ではありません。
そのため、相手に信用を与え、商品・サービスを提供したあとに代金を請求する与信取引を行うのが一般的です。
与信取引では、常に代金を回収できないかもしれないというリスクを伴います。そのため、回収できない場合を想定してリスクを回避・軽減するための与信管理が必要です。
与信管理では、取引先の情報を収集・分析し、信用力の変動がないかを確認しながら取引額を調整していきます。これにより、損失を抑えながら代金を回収することが可能です。
与信管理の中でも特に重要なのが、与信限度額です。取引に上限額を設定することでリスクを避けることができます。取引開始後も、設定した与信限度額が適切かどうかを随時検証していくことが大切です。
取引先企業の経営状況や業界・市場は常に変化しており、一度決めた与信限度額を検証することなく取引を継続することは、売掛金の焦付きや連鎖倒産といったリスクを増大させるでしょう。そのため、与信限度額設定と信用調査や格付けなどの与信管理業務は、滞りなく確実に行われなければなりません。
掛取引を行う上で重要となるのが、取引先の与信管理です。該当する企業が取引を開始して問題ない企業かの判断を行い、取引先ごとに取引額を設定する業務です。理想的な与信管理とは、すべての取引状況を正しく把握し、与信リスクを定期的に見直しながら適切に管理をすることです。
理想的な与信管理ができると、自社の損失を最小限に抑えることができるとともに、売上や利益の最大化にも繋がります。
与信管理は以下の流れで行われます。
この中で、今回のテーマとなる「与信限度額」は①に関連します。
社内格付け制度に基づき査定された格付けを基準として、企業ごとに取引額の上限額を設けますが、この際の上限額が「与信限度額」と呼ばれます。
これは、企業の支払い能力や取引額に応じて設定されます。取引数が増え売上が増えることは望ましいことである一方で、その売上が売掛金のまま未回収となってしまっては本末転倒です。未回収となった売掛金は、自社の収支、ひいては経営状況を圧迫する危険性があります。そのため、与信限度額は回収の見通しが立つ範囲内で設定し、一度決定した上限額に関しても、取引先の経営状況などを考慮し継続的に妥当性を検証する必要があります。
与信管理の流れでは、まず与信取引の基準を明確にすることが必要です。明確化の手順について、詳しくみていきましょう。
まず、取引先の経営状態や評判を知るため、情報収集を行います。財務諸表を確認することはもちろん、数値に表れない情報の調査も必要です。
上場企業の場合は企業情報が詳細に公開されていますが、非上場企業は限られた情報しか公開されていないことが多いです。そのため、インターネットからの情報収集や、業界での優位性、経営者の影響力やビジネス能力、性格・資質、同業者からの評判など、信用力を判断する目安となる情報を細かく集めましょう。
取引先へ訪問した際の雰囲気なども、判断材料になります。社内の様子は、以前と比較して変化があるかといった点も重要なポイントです。
ただし、これらの数値化できない定性的な情報には、不確実な情報や主観による判断も含まれることがあります。そのため、定性情報のみで判断せず、数値による定量情報と合わせて分析することが大切です。
集めた情報は定量面や定性面、商流から分析し、結果を踏まえて取引先の信用力を評価します。定量面では、財務諸表などに記載されている数値を点数化して分析します。
定性面は、数値化できない定性情報についての分析です。商流とは商売全体の状況のことで、取引全体の流れについての分析を行います。仕入先や納品場所・納品方法など、商流を確認することで取引先の信用度を分析します。
審査は評価する担当者によって結果が変わらないよう、一定の基準を設定しておくとよいでしょう。
評価に応じて、適切な与信限度額を設定します。あらかじめ整備した信用度による格付けに基づき、格付けの高い取引先は与信限度額を高く、格付けが低い取引先は低くするという方法で設定します。
与信限度額の設定基準はいくつかあるため、自社に合う方法を選びましょう。設定基準については、このあとの項目で紹介します。
与信限度額を設定したら、取引先に伝えて契約条件の交渉を行うというのが与信管理の流れです。
与信限度額設定のために、社内格付け制度の整備が必要です。社内格付け制度があれば、一定の基準で取引先を評価でき、判断が容易になります。
信用力の高さに応じて評価項目とその内容、格付けの基準を設定した格付け表を作成し、格付けごとに取扱方針を明確にします。格付け表の作成では、担当者の主観に偏らないよう、複数人の意見をもとに整備することが大切です。
格付け表の一例を紹介します。
社内格付け制度の整備で評価をルール化しておけば、与信管理の流れがスムーズになります。
与信限度額の設定は、売上を伸ばすために必要な金額で、かつリスクを押さえた安全な範囲内であることが必要です。
限度額の設定方法にはさまざまな基準がありますが、ここでは主に用いられている4つの基準を紹介します。
自社の売上債権(売掛金や受取手形)を基準に与信限度額を設定する方法です。万が一その債権を回収できなくても、経営に大きな支障をきたさない範囲内の金額を設定します。
一般的に、売掛金や受取手形は1~2ヶ月後に回収されます。その期間の回収がなくても経営が持ちこたえられるか、手元の現金とのバランスも考える必要があります。
取引先の純資産を基準にする方法です。「正味財産分割法」とも呼ばれます。純資産をもとに、債権回収ができなかった場合でも影響が小さいと考えられる一定割合を算出し、与信限度額を設定します。
純資産が十分にあれば倒産リスクも低く、未回収のリスクは少ないといえるでしょう。倒産した場合でも、売掛債権分は回収できる可能性が高いと考えられます。
ただし、この方法の場合、純資産が大きい大企業では与信限度額が実質的に上限の意味を持たないという不都合があります。反対に、純資産が少ない優良中小企業の場合は与信限度額が必要以上に制限される可能性があるでしょう。
取引先の仕入債務を基準にする方法です。仕入債務とは、貸借対照表に記載されている買掛金や支払手形のことです。債務の金額が大きいほど、将来支払える金額が大きいということで、取引先の支払能力を判断します。
仕入れ債務を基準にすることで、取引先の支払能力を超える契約を避ける意味があります。
ただし、仕入債務が多い取引先には与信限度額が高く設定されることになるため、許容リスクを超えて取引してしまうことのないよう注意が必要です。
取引の上限額を月間売上高の1割以下とする方法です。取引先の支払い能力を超過する取引を避けるために行います。
その一方で、純資産の場合と同様に、大企業に関しては上限額が意味を持たず、優良中小企業に関しては条件が厳しくなる恐れがあります。また、売上高に関しては業種や業態で差があること、また会計処理の違いによっても変わるため、全企業に対して適用するのが適切とはいえない場合もあります。
このほか、新規取引先に対しては与信限度額を段階的に増額・減額を検討する方法や、取引先と同業の会社の中で標準的企業を選び、その企業と比較して与信限度額を決める方法もあります。
それぞれ一長一短があり、いずれかひとつに偏った数値で判断を行うと、重要な情報を見落とすこともあるため、設定方法は慎重に選ばなければなりません。
与信限度額は設定したら終わりではなく、自社や取引先、市場の動向を確認しながら管理していくことが大切です。円滑に与信限度額を設定・運用するためには、次のポイントを押さましょう。
与信管理は、専門部署を作ることが業務を円滑に運用するポイントのひとつです。
与信限度額の設定が終わったあとも、継続的に取引先の情報収集や格付けなどの与信管理が必要であり、地道な作業が求められます。判断には、公平な視点も必要になるでしょう。
与信管理は、取引先との距離が近い営業部門が兼務しているケースも少なくありません。しかし、営業では売上を重視して行動する場合もあり、設定されている与信限度額を超過して取引を行ってしまう可能性があります。そのため、独立した専門部署を作る方が与信管理を円滑に進めるためには良い場合があるでしょう。
取引先の情報収集は、多角的に行うことが大切です。入手先や手段を複数用意することで、偏りのない情報を収集できます。Webサイトの情報や商業登記簿、企業パンフレット・商品カタログなど、入手可能な情報を幅広く集めましょう。
外部の情報だけでなく、取引先を訪問して内部の状況を確認することも必要です。従業員の様子や職場の環境など、外部の情報だけではわからない情報を入手します。倉庫や工場など、見学できる場所はできるだけ多く確認しておきましょう。
情報は日々変化するため、有益な情報を得るためには定期的な情報収集の実施が必要です。
与信限度額の設定をはじめ、与信管理に必要な業務は多く、スキルも必要になります。人材不足やコストの問題で、独立した部署を設置するのが難しいケースもあるでしょう。
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本記事では適切かつ効率的な与信限度額設定を行うコツをご紹介しました。
与信限度額設定は、与信管理業務の中での大切なポイントであり企業の命運を左右するといっても過言ではないほど重要です。ただ、理想的な与信管理を自社で実現するにも、「十分な時間やコストが割けない」「人員が確保できない」など、さまざまな弊害があることも多いでしょう。
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