与信管理とは取引先の与信に応じて限度額を設定し、売掛金の未回収リスクに備えることです。与信管理を担う部署は審査部や総務部、法務部、経理部、営業部が挙げられます。今回は与信管理を行う部署や業務フロー、失敗しないためのポイントを分かりやすく解説します。
与信とは取引先の信用度のことで、売掛金を安全に回収する際の基準となる考え方です。企業間では掛け取引が頻繁に行われるため、取引相手から売掛金を回収できない場合は資金繰りの悪化に見舞われる可能性があります。
与信に応じて取引先をランク分けし、一定の基準を満たす企業と取引を交わすことでリスクマネジメントになります。与信管理は取引先ごとの与信に応じて、限度額を決める行為です。管理のルールとして与信管理規定を設け、取引相手の経営・財務状況を考慮して格付けします。
与信管理には限度額が適正な水準か、定期的に見直す行為も含まれます。需要や市場の成長度、売上などに応じて、与信は常に変化するものです。売掛金の回収は利益を蓄積し、事業拡大に向けた投資を行うために不可欠といえます。企業活動において与信管理は極めて重要度が高く、部署内に部門を設けるなどして継続的に行われるのが一般的です。
企業が与信管理を適切に行わないと、売掛金の未回収リスクを把握できなくなります。結果的に回収の遅延や貸し倒れが増え、資金繰りの悪化を引き起こします。売掛金の遅延が原因で支払いが滞れば、自社の信用は失墜してしまいかねません。
取引先の減少が深刻な状態に達すれば、経営危機に陥る可能性もあります。与信管理は売掛金の未回収で生じるリスクに備えるために不可欠です。いかなるメリットがあるのか、与信管理を行う目的を解説します。
与信管理を行う第一の目的は、未回収のリスクを管理し、回収の遅延や貸し倒れによる損失をなくすことです。売掛金を回収できず不良債権化した場合、帳簿上は貸し倒れ損失とみなします。
取引額を売上に計上できないばかりか、損失が増えてしまいます。未回収の売掛金を取り戻すために必要な金額は、貸し倒れに終わった金額にとどまりません。仮に100万円の未回収債権が発生した場合、経常利益率を1%と仮定すると、損失を埋め合わせるには1億円の売上が必要です。
このように売掛金の回収の遅延や、貸し倒れによる損失が企業に与える影響は大きくなります。取引先の与信を把握し、適切な限度額を設定することがリスクに備える有効な方法です。
売掛金の未回収が原因で買掛金や経費の支払いが滞ると、債権者の取引先からの信用を失います。貸し倒れの額が大きい、頻度が多い、などあれば、顧客離れを引き起こしかねません。
不信感や不安を募らせた取引先は、期日までに支払いができなかった相手方の信用調査を行う場合があります。帝国データバンクでは上場企業を中心に、さまざまな企業の決算データを確認できます。取引先に自社の経営状態が危機的な状況にあると伝われば、今後の取引に影響が生じかねません。
売掛金の未回収による資金繰りの悪化を防ぎ、期日までに滞りなく支払いを済ませることで、自社の信用力の維持に努めましょう。
未回収の売掛金が多額に上れば企業は経営危機に晒されますが、自社と関係性が深い取引先と共倒れになる可能性があります。
連鎖倒産とはある会社の倒産をきっかけに、ドミノ倒しのごとく、次々と廃業する企業が出ることです。親会社の経営破綻が原因のケースのほか、売上の大部分を占めた取引先の倒産が原因のケースなどもあります。
取引先の連鎖倒産によって複数の企業に対する売掛金の貸し倒れが生じた場合、売掛元が被る被害は大きくなります。与信管理で倒産のリスクを正確に把握し、特定の企業に依存しない体制を構築することが重要です。
売掛金が未回収に終わると今までの営業努力が徒労と化し、営業担当者をはじめ、会社全体のモチベーション低下を引き起こします。取引先から期日までの入金が確認できない場合、窓口の営業担当者が督促を行う場合もあります。
督促は支払いを急かす行為のため、プレッシャーを感じる方は少なくありません。営業担当者は新規開拓や既存顧客のアフターフォローなどで忙しいなか、追加で発生する業務に負担を抱く恐れもあります。従業員に余計な精神的負担を与えないためにも、信用力の高い企業と取引を交わすことが重要です。
与信管理の定義や目的が分かったところで、次は実際の運用方法を解説します。一般的な業務フローは次の通りです。
それぞれの手順で何をすべきか必要な行動を解説します。
まずは取引先に関する情報収集を行います。リサーチの方法は営業担当者へのヒアリングやインターネット上の調査、信用調査会社の活用などがあります。これらの手法を駆使し、取引を継続しても安全な相手かを見極めましょう。
また、従業員一人ひとりが取引先の経営状態を観察する癖を身につけていると、取引先の些細な変化にも気づきやすくなるかもしれません。
収集した情報をもとに複数の視点から分析を行います。分析手法には「定量分析」「定性分析」「商流分析」の3つがあります。定量分析は貸借対照表と損益計算書の数字から、取引先の経営状態を把握する方法です。上場企業であれば帝国データバンクやコーポレートサイトから情報を入手できますが、規模が小さい会社は調査会社への依頼が必要です。
定性分析は代表者の人柄や技術力、内部体制など数字では評価できない情報に基づく分析です。定量分析では調査が難しい企業のポテンシャルや将来予測の判断に効果的です。
商流分析とは取引先と関わりがある企業に範囲を広げて、流通の過程まで調査することです。仕入先や最終的な需要者のほか、決済条件や納品の場所などもリサーチの対象です。定性分析は企業単体の調査では確認しにくい取引の全体像やトラブルの可能性の精査に役立ちます。
取引先の評価はあらかじめ社内で定めた格付け基準に沿って行われるのが一般的です。与信管理規定で統一的な基準を設定し、簡潔な記号・数字で分類したうえで取引先を振り分けましょう。
たとえば「A:支払能力が非常に高い」「B:支払能力が高い」「C:支払能力は中程度」「D:将来の支払能力に懸念がある」「E:支払能力に懸念がある」「F:契約不適合」というように定めます。ランクに応じた倒産確率まで決めるのが望ましい状態だといえます。
与信管理の格付けは取引先の支払能力や倒産の可能性に重点を置くのがポイントです。重要な指標や基準を設定し、財務データや業界平均との乖離で高低をつけると取り組みやすいでしょう。
取引先ごとに掛け取引の上限額となる与信限度額を決める必要があります。純資産や仕入債務、売上債権を基準にする方法が代表的です。
純資産を基準に与信限度額を決めた場合、万一取引先が倒産しても配当を受けられる可能性があります。買掛金や支払手形など仕入債務を基準にする方法では、自社の債権割合が大きくなり過ぎるのを防げるのもメリットです。取引先が経営危機に直面しても、貸し倒れするリスクを減らせるでしょう。また、売上債権を基準にする方法は、定期的に取引がある企業の評価に適しています。
企業ごとの売掛金を継続的に管理する必要があるため、請求締め日に合わせて月末単位で残高を測定します。与信限度額と照らし合わせ、上限を超過した相手に対しては督促の対応が求められます。仮に売掛金の残高が信用枠の範囲内に収まっていても、期日までの入金が確認できない場合は回収に努めましょう。
すべての取引先に対して月ごとに売上債権を管理する負担は大きいはずですが、売掛金の残高を迅速に把握し、限度額の範囲内で収まるよう調整を図るという流れをしっかりと理解しましょう。
与信管理は業務の重要性や定期的な見直しが伴う手間を考え、専門部署を置くこともあります。しかし、近年では審査部を設けずに事業部門の一部が役割を担うケースも見受けられます。与信管理を行う部署を紹介し、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
審査部を設け、与信管理の専門部署を持つのが一つの方法です。与信管理ではリスクの抜け漏れの防止や取引先ごとの正確な評価が求められます。審査部を設けて十分な人員を確保すれば、きめ細やかな対応が実現するでしょう。
教育体制を確保し、業務で培ったノウハウを次世代に承継することも可能です。与信管理基準を準備しても、日々移り変わる事業環境に合わせて柔軟な運用をしなければ、次第に形骸化してしまいます。
また、与信管理をそれぞれの部署に任せた場合、格付けの基準がばらつきやすくなることも考えられます。専門の審査部があれば、各部署の情報を一元化できるでしょう。
与信管理専門の審査部を設けるデメリットは、業務の属人化や人材調達が困難になる恐れがあることです。与信管理には高度な情報収集力や分析力が求められるため、特定の有能な従業員に仕事が集中してしまう可能性があります。
また、十分な経験を持ち、即戦力としての活躍を期待できる人材の獲得は容易ではなく、異動や退職が生じた際に代わりの人材を見つけるのが難しいこともあるでしょう。
総務部で与信管理を行うのは、新規顧客の開拓がほぼなく、既存の顧客のみで安定した利益を得ている場合が考えられます。支払いの遅延や貸し倒れの危険が少ないため、与信管理の重要性が低い状況だといえます。
あらゆる部署にまたがる情報を保有しているのは総務部の強みです。情報収集に必要なリソースを抑えて、効率的に業務のサイクルを回すことができるでしょう。一方でさまざまな業務を同時にこなす必要がある総務部では、与信管理が最低限になる可能性もあります。財務状態の正確な分析や、トラブル時の解決策の立案など高度な業務は難しい場合もあるでしょう。
倒産リスクのほか、取引に伴う法的なトラブルが予期される場合などは、法務部が与信管理を担うことがあります。法務部は法律の知識には長けていても、会計や取引先の情報は不足する可能性があります。そのため十分な与信管理を行うためには、営業部門や経理部門との密な連携が不可欠です。
特に取引先の移り変わりが激しく、与信管理に力を注ぐ必要がある会社では、債権保全の手法や倒産手続きの流れ、事故発生時の対応などへの理解が大切です。与信管理は法律の知識が重要だと考えると、法務部が担う意義は十分にあります。
与信管理は入金管理や財務分析との親和性が高く、経理部が担うケースもあります。日常的に取引先からの入金を扱う経理部は、売上債権の管理に必要な情報を把握しやすい部署だといえます。
頻繁に遅延を起こす取引先は倒産リスクが高いと判断できます。たとえ資金繰りに困っていない場合でも、入金期日に間に合わないことが多々発生すれば、管理体制の問題が疑われます。入金管理を行う経理部であれば、それまで期日を守ってきた取引先が遅延を起こすといったような異変を察知しやすいでしょう。
与信管理ではリサーチで得た情報に基づく分析も重要な業務です。財務データの扱いに慣れている経理部であれば、抵抗感を抱かずに財務分析を行えるでしょう。与信管理を経理部が担うメリットは多く、企業経営の視点に立てば合理的な選択です。
未回収に終わった債権の穴埋めや利益の確保に重点を置く場合などは、営業部門が与信管理の役割を担うことがあります。取引先の内部状態に精通し、代表取締役や担当者と日常的に接する機会がある営業部であれば、資金繰りの悪化や倒産の危険をいち早く察知できる可能性があります。
貸し倒れが決定的な状況だと分かったら、新規顧客の獲得に動いて利益の埋め合わせをするなどのリスクヘッジも期待できる部門です。既存顧客においてもクロスセルやアップセルなど幅広いアプローチができるのも強みです。
営業部門が与信管理を担う場合、利益重視の偏った目線に陥り、適切な限度額の設定ができなくなるリスクがあります。信用枠の基準が甘くなれば、予期せぬ遅延や突然の貸し倒れで窮地に立たされることもあるでしょう。営業部は与信管理のリスクとリターンを同時に管理できる反面、独断的な視点に陥りやすいのが難点です。
与信管理を失敗しないためのポイントは次の4つです。
それぞれ注意したいことを具体的に解説します。
精度の高い与信管理のために複数の情報源を入手し、信頼できるデータを集めましょう。特に数値では分からない定性データの測定では多くの情報源が必要です。
経営者の人柄でいえば、営業担当者が接して得た印象以外にも、関係取引先への聴取など複数の情報源の確保が求められます。ヒアリングに必要なフォーマットを準備しておくと、聞き取りを依頼したい相手に渡せるため便利でしょう。
適切な与信管理とは、企業ごとのリスクに応じた柔軟な対応を意味します。未回収のリスクが大きな取引先には限度額を低く設定して、リスクが小さい取引先には限度額を高く設定して貸し倒れに備えましょう。
情報収集や財務分析に注力し、主観的な判断に頼りすぎず客観的な判断で限度額を設定することが大切です。また、信用力に対して限度額が大きすぎたり小さすぎたりするのは避けなくてはいけません。契約して問題ない企業かを正確に見極め、与信管理の意義を十分に発揮する意識を持ちましょう。
いくら与信管理に注力しても、売掛金の未回収リスクは完全にはなくせません。たとえば火災や地震による資産の滅失は予期できないでしょう。また、与信限度額を設定する際に売上債権を指標とした場合、多大な仕入債務の存在を見落とす可能性もあります。
万一債権を回収できなくなったケースに備えて、致命的な被害を被らないための対策が必要です。与信管理に失敗して、仕入先への買掛金の支払が滞れば、一次的な資金繰りの悪化とはいえ企業の信用は失墜します。あらかじめ融資の受け入れ先や活用できる補助金・給付金の選定などの対策は重要でしょう。
取引先と直接やり取りを交わす営業担当者と、情報を収集・分析する管理部門の連携体制を構築しましょう。営業部門が経営状態の変化を察知して迅速に情報を共有すれば、適切な与信限度額の設定につながる可能性があります。部門間のコミュニケーションが不十分な場合、重要な情報を得たとしても共有が遅れてしまいます。
営業のワークフローやマニュアルで、共有先に管理部門を組み込んでおくのも一つの方法です。部署の垣根を超えて活発なやり取りを意識すれば、一体感も生まれるでしょう。
与信管理で専門の部署を設けず、経理部や営業部が審査の役割を担う企業も増えています。部署ごとの専門性を活用して、財務分析や情報収集を効率的に行えるのが利点です。取引先との関係性や与信管理の重要性に応じて、どの部門に任せるのが適しているか判断しましょう。
部署にかかわらず、与信管理では取引先の情報収集や精度の高い分析が重要です。本記事の内容を参考に、売掛金の遅延や貸し倒れリスクに備えましょう。
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